10月6日。空気は澄み、木々の葉が色づき始めます。境内には晴れ着の子どもたちと、その成長を祝う家族の姿がちらほら。七五三の本番は11月15日ですが、気候の穏やかな10月上旬から参拝が始まります。現代では写真撮影や衣装が注目されますが、七五三の本質は「子どもの成長を神に感謝し、これからの無事を祈る」古代の通過儀礼にあります。

七五三の年齢――三歳・五歳・七歳――にはそれぞれ深い意味があります。

三歳「髪置（かみおき）」：平安時代、幼児は衛生上の理由で髪を剃っていましたが、三歳になると髪を伸ばし始める儀式を行いました。これは人として形が整い、神の加護を受ける準備ができたことを示します。

五歳「袴着（はかまぎ）」：男児が初めて袴を着る儀式。社会の一員としての自覚を持ち、責任を学び始める節目でした。今でも神社での七五三では、男の子が袴姿で参拝する姿が印象的です。

七歳「帯解（おびとき）」：女児が初めて大人と同じ帯を締める儀式で、幼児から少女への成長を祝います。帯は命の象徴とされ、神前で結ぶことで健康と幸福を祈りました。

七五三は室町時代以降、神社で行われるようになりました。江戸時代には徳川家の子どもが11月15日に成長の儀を行ったことから、この日が定着したとされます。氏神様への参拝が一般化すると、武家や町人の間でも広まり、やがて全国的な風習となりました。

神社では、子どもを「神からの預かりもの」と考えます。生まれてから七歳までは「神の子」とされ、まだ完全には人の世に定着していない存在。七五三はその境界を越え、正式に社会の一員となるための通過儀礼だったのです。

七五三といえば、長い紅白の袋に入った千歳飴（ちとせあめ）が象徴的です。江戸時代、浅草の飴職人が「千年の齢を授かるように」と願って売り出したのが始まりといわれます。飴の長さは「長寿」、紅白の色は「めでたさ」、袋の鶴亀や松竹梅は「永遠の繁栄」を表しています。一本の飴には、親から子へ受け継がれる祈りが込められています。

神々が出雲に集う神無月に、なぜ七五三が行われるのか。実は、出雲に集う神々が「縁を結ぶ神議り」をしているこの時期に、子どもと神との縁を強める行事を行うのは、非常に理にかなっています。神々が全国の子どもたちの未来を話し合う――そんな想像を重ねると、10月の境内の祈りはより一層深みを帯びて感じられます。

現代の七五三は、写真撮影や衣装レンタルなど華やかな行事になりましたが、その根底にあるのは「家族で神に感謝を捧げる時間」。祖父母や両親が並び、子どもの手を引いて拝殿に向かう光景は、古代から変わらぬ日本人の祈りの形そのものです。

2025年10月6日。七五三を迎える季節のはじまり。神社の鈴の音に包まれながら、子どもの健やかな成長を祈るひとときは、家族の絆と神の加護を結ぶ美しい儀式です。晴れ着の笑顔の奥には、「命をつなぐ祈り」という、千年以上続く日本の心が息づいています。