10月5日。空は澄み渡り、秋晴れの日が多くなる一方で、時折、遠くの山に雷鳴が響くことがあります。夏の激しい雷とは違い、秋の雷は静かで、どこか神秘的。古来、人々は雷や稲妻の光に田の神や龍神の姿を重ね、自然の力そのものを神として崇めてきました。

「稲妻（いなづま）」という言葉には、「稲を妻とする雷」という意味が隠されています。古代の人々は、雷が落ちる田に稲がよく実ると信じ、雷を「田の神の訪れ」とみなしました。稲妻の光は、天と地、神と人を結ぶ一瞬の閃光。神社の祝詞に「高天原に鳴り渡る雷神」とあるように、雷は天の意思を地上に伝える神聖な力でもあったのです。

雷神は『古事記』や『日本書紀』にも登場します。伊邪那岐命（イザナギ）が黄泉の国から逃げ帰る場面では、雷神たちが暗闇を照らし、天地の境を守る存在として描かれています。雷神はしばしば龍神と同一視され、雷鳴とともに雨を呼び、農作物を育てる恵みの神とされてきました。

全国の神社では、水源や山、海を祀る龍神社が点在します。奈良県の龍田大社や、神奈川県の江島神社・辺津宮などは、風雨や雷を司る神を祀り、五穀豊穣と航海安全を願う祭祀を古くから伝えています。秋の終わりに近づくこの季節、龍神は収穫を見届け、再び天へ帰るともいわれます。

雷は神聖であると同時に、恐れの対象でもありました。落雷や火災を避けるため、各地で雷除け神社や火防（ひぶせ）神社が祀られています。たとえば東京都の雷電神社、長野県の雷電為右衛門の郷・雷電社などがその代表です。「雷電（らいでん）」という名前自体が雷神信仰の名残を伝えています。

一方で、雷を「恵みの印」として受け入れる風習も根強く残りました。雷鳴の後の雨を「神の涙」「龍の息吹」と呼び、田畑が潤うことを喜ぶ――そこに日本人の自然観がよく表れています。

秋に鳴る雷は「秋雷（しゅうらい）」と呼ばれ、古くは吉兆とされてきました。秋雷の後は気候が安定し、実りの季節が終わりを告げる――それはまるで、神が一年の恵みを締めくくる合図のようです。神社の境内で風にそよぐ稲穂を見ながら、遠くに雷鳴を聞けば、天と地をつなぐ神の息吹を感じ取ることができるでしょう。

神社建築にも、雷への畏敬が見えます。拝殿の屋根にある「千木（ちぎ）」や「鰹木（かつおぎ）」は、天とつながる象徴。雷鳴が空を走るとき、人々はその音に神の存在を重ねてきました。雷は恐怖でありながらも、浄化と再生の力をもたらす神の声――秋の空に響く一閃は、天地の祈りを象徴する神々の調べなのです。

2025年10月5日。収穫の季節の終わりに響く秋の雷は、田の神と龍神が語りかける「天の声」。その光と音は、自然の恵みと畏れ、祈りと感謝をひとつに結ぶ神の現象といえるでしょう。神社で手を合わせるその瞬間、稲妻のきらめきが過去から未来へと続く日本の信仰の系譜を照らしています。