菊池の松囃子(きくちのまつばやし)
種別1:民俗芸能
種別2:渡来芸・舞台芸
公開日:毎年10月13日
指定日:1998.12.16(平成10.12.16)
都道府県:熊本県
所在地:菊池神社(菊池市)

菊池の松囃子は熊本県菊池市に伝承される芸能で、毎年10月13日の菊池神社の秋の大祭初日に、征西将軍懐良親王ゆかりの将軍木と称するムクの大木に向かって建てられている能舞台で演じられる。

松囃子とは中世に流行した芸能で、もともと新春に祝言を述べ種々の芸能を演じたもので、松拍・松奏などとも記した。

松囃子は、演じられる芸能の種類から、つくりものや仮装など風流系のものと、能・狂言系統に大別される。菊池の松囃子は能・狂言を演じる松囃子として、古風な面影を残している。

その起源については確たる資料を欠くため不明確であるが、地元の伝承では14世紀に懐良親王を菊池に迎えた菊池武光により、年頭の祝儀として正月2日に催したのを始まりとしており、また、現在伝承されている詞章などからみて少なくとも室町時代から伝承されていると考えられる。

菊池の松囃子は、立烏帽子・直垂・大口袴・白足袋姿の舞人一名、裃姿の地謡方(人数不定)、裃姿の大鼓2名・太鼓1名の囃子方、および介添え役1名によって演じられる。

その次第は、最初に地謡が切戸口より出て鏡板を背にして二列に着座し、続いて橋掛かりから大鼓・太鼓・介添え役が出て地謡の前に座る。その後、1メートルほどの笹を右肩に担いだ舞人が橋掛かりから摺り足で登場し、舞台正面に進み着座して、将軍木に向かい一同一礼する。

演技は三段で構成されており、初段は舞人が立ち上がり、「天下泰平、国家安穏、武運長久、息災延命、弓は袋に入れ、剣は箱に納め、我が朝にては、延喜の帝の御代ともいいつべし。もろこしにては堯舜の御代ともいえり。千年丹頂の鶴、万歳緑毛の亀、めでたき御代にて御座候、毎年御嘉例の松をはやし申そう」と祝言を述べ、二段目は地謡と囃子に合わせて笹を持って三番叟風の舞を舞う。

三段目では、舞人は太鼓の横にいる介添え役のところに進み、三宝の上に笹を載せ、かわって扇を右手に持ち、舞い納める。その後、一同将軍木に向かい一礼して、舞人・介添え役・囃子方は橋掛かりより、地謡は切戸口から退出する。

ここまでがいわゆる「松囃子」であるが、地元ではこの部分を「勢利婦」と称し、その後に仕舞「老松」をはじめとする仕舞・狂言が数番ずつ演じられ、全体を「御松囃子御能」と称している。全体として舞いの振りは古風であり、謡の調子にも素朴な要素をとどめるものといえる。

このように、菊池の松囃子は中世の松囃子の一形態を伝えるものとして貴重であり、能の変遷過程を知るうえで特に重要である。

保護団体名:御松囃子御能保存会
重要無形民俗文化財「菊池の松囃子」 - 室町期から続く、中世形態色濃く、能への変遷も
【関連記事】
菊池神社 - 熊本の南朝側武将、菊池武時、菊池武重、菊池武光の三代を祀る
熊本県の重要無形民俗文化財 - 都道府県別に整理