発見・検証 日本の古代 - 朝日新聞
朝日新聞が2015年3月に報じた、邪馬台国の女王・卑弥呼(原文ママ)がもらったとも言われ、製作地を巡り論争が続く謎の鏡・三角縁神獣鏡と同じ型式の鏡が中国河南省の洛陽市で見つかったとする論文が、地元の研究誌に掲載された、件について。画像は朝日新聞主催「発見・検証 日本の古代」の紹介ページ(出典:朝日新聞)。

かなり注視してきたつもりですが、見逃したのか、郷土史家の推論を紹介する程度で、続報らしい続報もなく、尻すぼみ状態だったこの“スクープ”。本サイトでは初めから慎重論の立場でした。

そのうち、安本美典氏などは、「これは、現代のねつ造鏡だよ!」などとも論じるほどになってきましたが、その朝日新聞が2015年6月25日に関連記事を掲載しました。

古代史シンポジウム「発見・検証 日本の古代」の大阪開催を前に、特別講座「鏡から考える邪馬台国・日本・中国」(角川文化振興財団、朝日カルチャーセンター主催)が5月30日、朝日新聞大阪本社で開かれ、森下章司・大手前大教授が「卑弥呼の鏡」とも呼ばれる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)のルーツについて語った、という記事を配信しています

5月30日のことを、6月25日になって配信するのは? とも思いましたが、古代史シンポが6月26日、「騎馬文化と前方後円墳の拡(ひろ)がり」をテーマに、大阪市中央区の御堂会館で開かれることの事前告知を兼ねたもののようです。

しかし、すでにシンポの席は完売している、とのことで、あまり告知の意義がないような気もしないでもないですが。

ともかく、そこで、森下氏は徐州産説を展開、「三角縁神獣鏡は最初から日本向けを意識して作られた可能性があり、中国で出土しないのも、倭人の好みに合わせて作られたからでは」というのを紹介。

生産されたものがすべて何の痕跡もなく、日本に運ばれた、という説になりますが、例えば、失敗作の破片ぐらい出てきてよさそうなもののような気がしますが。それも含めて、“日本人好み”だからすべて日本に運んだ、ということでしょうか。

それもともかく、森下氏がその上で、洛陽で見つかった三角縁神獣鏡について、「形式的には三角縁神獣鏡だが、中国で出土したと断定できる証拠もない」と指摘したことを紹介しています。

結果的に朝日新聞は自身の“スクープ”を、他者の言説を借りて否定していることになります。メディアがよくやる手法ですね。

本件は慰安婦ほどの悪意は感じられるものではありませんが、朝日新聞が“スクープ”に飛びつき、走りがちな点は共通しており、その“スクープ”をろくに検証しないまま、その事実のみならず、自説に有利なような誘導を考慮して配信してしまう、という、ロジックには共通項を感じてしまいます。

今回の件も、そうした論文が出た、その論文はこういうことを言っている、日本語版は現在はないが、原文はここで読める、という、事実をまず報じればよいようなものを。

大新聞社もジャーナリズムと言ったって、所詮は経済活動、事実だけではお金にならない、ということでしょうか。

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