「凡伊邪那岐、伊邪那美二神、共所生嶋壹拾肆嶋、神參拾伍神」
古事記のイザナギとイザナミによる神産みの段の末尾に挿入されている一文です。
前から気になっていた神産みでの神様の柱数の問題。「淡路島の35柱神々モニュメント」の記事書いていたら、「そう言えば、この数、合わなかったんだよな」と思い出しました。
イザナミとイザナギの二柱の神々は、ともに14の島々と、35柱の神々を生みました。
素直に訳せば上のようになるのですが、その内訳が問題です。
14の島々は、大八嶋国(おおやしまのくに)の8つと、その他の島々の6つでちょうど14。これは問題ありません。
問題は「35柱の神々」。島々を産んだ後に、神々が続々と生まれ、その名前が列挙されていますが、どのように数えても35柱にならない。というよりは、そもそもの文中にいくつかの齟齬があったりします。
この問題、インターネットで探してもあまり出てきませんでした。まあ、普段はたいして気に掛ける問題でもないですし、私も放置していましたし。
が、何とかかんとかひねくり回して、ようやく見つけました。戸谷高明「記上巻における神々の総数記事-「參拾伍神」に及ぶ-」(PDF)。
昔から研究されてきていたのですね。それはそうでしょう、考えてみれば。しかし、色々とひねくり回さないと解決しない、というより、そうしたアクロバティックな解釈をしたとしても、いまだに定説がない、ということのようです。
神産みの段で登場する神は、つまり、オオコトオシヲノカミからトヨウケビメノカミまで、全40柱です。何度数えても40柱。上記の戸谷さんの論文でもそこは一致しています。
そもそも35柱ではないのですが(だから問題なのですが)、この中には、イザナギとイザナミの子ではなく、いわば孫も含まれています。この40柱の内訳は、
第一グループ:オオコトオシヲノカミからハヤアキツヒメノカミまで、イザナギとイザナミの子の10柱
第二グループ:第一グループの最後の二柱、ハヤアキツヒコノカミとハヤアキツヒメノカミの子、イザナギとイザナミの孫8柱
第三グループ:シナツヒコノカミからカヤノヒメノカミまで、イザナギとイザナミの子の4柱
第四グループ:第三グループの最後の二柱、オオヤマツミとカヤノヒメノカミの子、イザナギとイザナミの孫8柱
第五グループ:トリノイハクスブネノカミからヒノカグツチノカミまで、イザナギとイザナミの子の3柱
第六グループ:イザナミ負傷後に産まれた6柱と、そのうちの1柱がもうけた娘である1柱(つまり孫1柱)
上のうち、古事記では第五グループと第六グループをまとめています。そして、古事記の記載で問題になるのもココ。
第五グループで出てくる神名、つまり神様は3柱、第六グループでは7柱であり、計10柱の神々が登場することは間違いありません。しかし、古事記ではこの部分を「全部で8柱」とはっきり記載しています。実際と比べて2柱少ないのです。
この部分以外で、登場する神様の柱数と、古事記がまとめて「何柱」と括っている記述で、齟齬が見られるところはありません。
では、この部分に間違いがあって、実際は計10柱ではなく、計8柱が正しい(島産みでも登場したオオゲツヒメがなぜかこの部分にも紛れ込んでいる、イザナミを死に至らしめたカグツチは数に含めない、などで調整する)、としても、神産みで登場する神々は総数38柱となり、やはり35柱にはなりません。
また、古事記を読むと、あくまでもイザナギとイザナミが神産みした、特にイザナミが産んだ、ということに重点が置かれているようなニュアンスに取れる(特に、神産みはイザナミが死ぬ前まで、というような表記もある)ので、厳密に言えば、第二グループと第四グループ、それと第六グループの一部である、イザナギとイザナミの孫にあたる神々計17柱は入れない方がよいのではないか、とも思われます。
そもそも、イザナミ負傷後については、イザナギとの共同作業、という感じがあまりしない面があり、これらを含めてよいのかどうか。
だから、これらの神々を削って、先の島産み14柱と入れ替えて調整しよう、などの試みが過去にもあったようで、先の記事でも私はそのようにしてみましたが、それでもうまくいきません。
一方で、古事記で注釈的に記載されている総数は、それはそれで確固たる数字のような感じがし、特に偶数で綺麗にそろえているところに意味ありげだったりします。
古事記の記載に従えば、第一G10柱+第二G8柱+第三G4柱+第四G8柱+第五G・第六G8柱ですので、計38柱。
「神參拾伍神」は、「神參拾捌神」の誤植、というのが一番単純な解決かも。国、島、神産みの全神名は下記の通り。
国産み - 大八嶋国(おおやしまのくに) 8柱
・アハヂノホノサワケノシマ - 淡路島
・イヨノフタナノシマ - 四国
・オキノミツゴノシマ - 隠岐島
・ツクシノシマ - 九州
・イキノシマ - 壱岐島
・ツシマ - 対馬
・サドノシマ - 佐渡島
・オオヤマトトヨアキツシマ - 本州
島産み - 六つの島 6柱
・キビノコジマ
・アヅキジマ
・オオシマ
・ヒメジマ
・チカノシマ
・フタゴノシマ
以上計14柱、古事記「嶋壹拾肆嶋」に合致
神産み - 第一グループ 10柱
・オオコトオシヲノカミ
・イハツチビコノカミ
・イハスヒメノカミ
・オオトヒワケノカミ
・アメノフキオノカミ
・オオヤビコノカミ
・カザモツワケノオシヲノカミ
・オオワタツミ
・ハヤアキツヒコノカミ
・ハヤアキツヒメノカミ
神産み - 第二グループ 8柱 イザナギとイザナミの孫
・アハナギノカミ
・アハナミノカミ
・ツラノギノカミ
・ツラナミノカミ
・アメノミクマリノカミ
・クニノミクマリノカミ
・アメノクヒザモチノカミ
・クニノクヒザモチノカミ
神産み - 第三グループ 4柱
・シナツヒコノカミ
・ククノチノカミ
・オオヤマツミ
・カヤノヒメノカミ
神産み - 第四グループ 8柱 イザナギとイザナミの孫
・アメノサヅチノカミ
・クニノサヅチノカミ
・アメノサギリノカミ
・クニノサギリノカミ
・アメノクラドノカミ
・クニノクラドノカミ
・オオトマトヒコノカミ
・オオトマトヒメノカミ
神産み - 第五グループ 3柱
・トリノイハクスブネノカミ
・オオゲツヒメ - 島産みと重複?
・ヒノカグツチノカミ - イザナミの死の原因、後にイザナギに斬殺される
神産み - 第六グループ 7柱 イザナミ負傷後に産まれた神々
・カナヤマビコノカミ
・カナヤマビメノカミ
・ハニヤスビコノカミ
・ハニヤスビメノカミ
・ミツハノメノカミ
・ワクムスヒノカミ
・トヨウケビメノカミ - ワクムスヒノカミの娘。イザナギとイザナミの孫
以上神産みの段計40柱、古事記「神參拾伍神」と不一致
第五グループ3柱と第六グループ7柱の計10柱、古事記では「計8柱」で不一致
古事記のイザナギとイザナミによる神産みの段の末尾に挿入されている一文です。
前から気になっていた神産みでの神様の柱数の問題。「淡路島の35柱神々モニュメント」の記事書いていたら、「そう言えば、この数、合わなかったんだよな」と思い出しました。
イザナミとイザナギの二柱の神々は、ともに14の島々と、35柱の神々を生みました。
素直に訳せば上のようになるのですが、その内訳が問題です。
14の島々は、大八嶋国(おおやしまのくに)の8つと、その他の島々の6つでちょうど14。これは問題ありません。
問題は「35柱の神々」。島々を産んだ後に、神々が続々と生まれ、その名前が列挙されていますが、どのように数えても35柱にならない。というよりは、そもそもの文中にいくつかの齟齬があったりします。
この問題、インターネットで探してもあまり出てきませんでした。まあ、普段はたいして気に掛ける問題でもないですし、私も放置していましたし。
が、何とかかんとかひねくり回して、ようやく見つけました。戸谷高明「記上巻における神々の総数記事-「參拾伍神」に及ぶ-」(PDF)。
昔から研究されてきていたのですね。それはそうでしょう、考えてみれば。しかし、色々とひねくり回さないと解決しない、というより、そうしたアクロバティックな解釈をしたとしても、いまだに定説がない、ということのようです。
神産みの段で登場する神は、つまり、オオコトオシヲノカミからトヨウケビメノカミまで、全40柱です。何度数えても40柱。上記の戸谷さんの論文でもそこは一致しています。
そもそも35柱ではないのですが(だから問題なのですが)、この中には、イザナギとイザナミの子ではなく、いわば孫も含まれています。この40柱の内訳は、
第一グループ:オオコトオシヲノカミからハヤアキツヒメノカミまで、イザナギとイザナミの子の10柱
第二グループ:第一グループの最後の二柱、ハヤアキツヒコノカミとハヤアキツヒメノカミの子、イザナギとイザナミの孫8柱
第三グループ:シナツヒコノカミからカヤノヒメノカミまで、イザナギとイザナミの子の4柱
第四グループ:第三グループの最後の二柱、オオヤマツミとカヤノヒメノカミの子、イザナギとイザナミの孫8柱
第五グループ:トリノイハクスブネノカミからヒノカグツチノカミまで、イザナギとイザナミの子の3柱
第六グループ:イザナミ負傷後に産まれた6柱と、そのうちの1柱がもうけた娘である1柱(つまり孫1柱)
上のうち、古事記では第五グループと第六グループをまとめています。そして、古事記の記載で問題になるのもココ。
第五グループで出てくる神名、つまり神様は3柱、第六グループでは7柱であり、計10柱の神々が登場することは間違いありません。しかし、古事記ではこの部分を「全部で8柱」とはっきり記載しています。実際と比べて2柱少ないのです。
この部分以外で、登場する神様の柱数と、古事記がまとめて「何柱」と括っている記述で、齟齬が見られるところはありません。
では、この部分に間違いがあって、実際は計10柱ではなく、計8柱が正しい(島産みでも登場したオオゲツヒメがなぜかこの部分にも紛れ込んでいる、イザナミを死に至らしめたカグツチは数に含めない、などで調整する)、としても、神産みで登場する神々は総数38柱となり、やはり35柱にはなりません。
また、古事記を読むと、あくまでもイザナギとイザナミが神産みした、特にイザナミが産んだ、ということに重点が置かれているようなニュアンスに取れる(特に、神産みはイザナミが死ぬ前まで、というような表記もある)ので、厳密に言えば、第二グループと第四グループ、それと第六グループの一部である、イザナギとイザナミの孫にあたる神々計17柱は入れない方がよいのではないか、とも思われます。
そもそも、イザナミ負傷後については、イザナギとの共同作業、という感じがあまりしない面があり、これらを含めてよいのかどうか。
だから、これらの神々を削って、先の島産み14柱と入れ替えて調整しよう、などの試みが過去にもあったようで、先の記事でも私はそのようにしてみましたが、それでもうまくいきません。
一方で、古事記で注釈的に記載されている総数は、それはそれで確固たる数字のような感じがし、特に偶数で綺麗にそろえているところに意味ありげだったりします。
古事記の記載に従えば、第一G10柱+第二G8柱+第三G4柱+第四G8柱+第五G・第六G8柱ですので、計38柱。
「神參拾伍神」は、「神參拾捌神」の誤植、というのが一番単純な解決かも。国、島、神産みの全神名は下記の通り。
国産み - 大八嶋国(おおやしまのくに) 8柱
・アハヂノホノサワケノシマ - 淡路島
・イヨノフタナノシマ - 四国
・オキノミツゴノシマ - 隠岐島
・ツクシノシマ - 九州
・イキノシマ - 壱岐島
・ツシマ - 対馬
・サドノシマ - 佐渡島
・オオヤマトトヨアキツシマ - 本州
島産み - 六つの島 6柱
・キビノコジマ
・アヅキジマ
・オオシマ
・ヒメジマ
・チカノシマ
・フタゴノシマ
以上計14柱、古事記「嶋壹拾肆嶋」に合致
神産み - 第一グループ 10柱
・オオコトオシヲノカミ
・イハツチビコノカミ
・イハスヒメノカミ
・オオトヒワケノカミ
・アメノフキオノカミ
・オオヤビコノカミ
・カザモツワケノオシヲノカミ
・オオワタツミ
・ハヤアキツヒコノカミ
・ハヤアキツヒメノカミ
神産み - 第二グループ 8柱 イザナギとイザナミの孫
・アハナギノカミ
・アハナミノカミ
・ツラノギノカミ
・ツラナミノカミ
・アメノミクマリノカミ
・クニノミクマリノカミ
・アメノクヒザモチノカミ
・クニノクヒザモチノカミ
神産み - 第三グループ 4柱
・シナツヒコノカミ
・ククノチノカミ
・オオヤマツミ
・カヤノヒメノカミ
神産み - 第四グループ 8柱 イザナギとイザナミの孫
・アメノサヅチノカミ
・クニノサヅチノカミ
・アメノサギリノカミ
・クニノサギリノカミ
・アメノクラドノカミ
・クニノクラドノカミ
・オオトマトヒコノカミ
・オオトマトヒメノカミ
神産み - 第五グループ 3柱
・トリノイハクスブネノカミ
・オオゲツヒメ - 島産みと重複?
・ヒノカグツチノカミ - イザナミの死の原因、後にイザナギに斬殺される
神産み - 第六グループ 7柱 イザナミ負傷後に産まれた神々
・カナヤマビコノカミ
・カナヤマビメノカミ
・ハニヤスビコノカミ
・ハニヤスビメノカミ
・ミツハノメノカミ
・ワクムスヒノカミ
・トヨウケビメノカミ - ワクムスヒノカミの娘。イザナギとイザナミの孫
以上神産みの段計40柱、古事記「神參拾伍神」と不一致
第五グループ3柱と第六グループ7柱の計10柱、古事記では「計8柱」で不一致
コメント