前方後円墳の世界 (岩波新書)
・刊行:2010/8/21
・著者:広瀬和雄
・出版:岩波書店

・『前方後円墳の世界 (岩波新書)』をアマゾンで購入

見る者を圧倒する巨大な墓、前方後円墳。

造られた当初は、全体が石で覆われ、時に埴輪をめぐらすなど、さらなる威容を誇っていた。

3世紀半ばから約350年間、この巨大古墳が列島各地に造られたのはなぜなのか。共通する墳形にはどんな意味があるのか。

史跡として復元・整備された古墳を歩きつつ、その世界観や地域相互の関係に迫る。

本書ではすべて網羅されているが、広瀬の論として、前方後円墳にまつわる国家論にスポットを当てたものとして『前方後円墳国家』が、前方後円墳の終焉にスポットを当てたものとして『前方後円墳の終焉』がある。

管理人了
前方後円墳から、古墳時代を見ていこうとする試みで、非常に整理されてまとまっており、文献史学からの歴史構築の訂正を迫る、説得力ある前方後円墳説の一冊になっている。

前方後円墳をできるだけ片年始、それとの規模の兼ね合い、地域的な分布、また、例としての地方での首長墓の系譜などが解説されており、大変読みやすい。

大和・柳本古墳群、馬見古墳群、佐紀古墳群、古市古墳群、百舌鳥古墳群を五代古墳群と位置付け、その配置を環大和政権配置と名付けて図式化するなど、前方後円墳を体系化して歴史を紡ぐという観点も共感できる。

首長霊などの解説は少し突飛な感じがするのは、考古学者の限界かもしれない。本書の解説を読む限り、前方後円墳祭祀とそれにつながる弥生期からの神殿などは、やはりむしろ神社の原型と考えた方がスムーズではなかろうか。そこには日本独自の宗教観としての、人は死してカミになるというものの原点が見られると思われる。

変にぴんと来ない概念としての首長霊などを述べるから、現代まで続く日本の宗教観とかい離したところで、前方後円墳が存在しているような感じを受け、前方後円墳を遠くのものにしてしまっている感がある。ただ、その解説は自身でもあまり自信がなかったのか、ごく少量にとどまっており、全体としては前方後円墳の入門書として最適。
巨大古墳の環大和政権配置 - 広瀬和雄『前方後円墳の世界 (岩波新書)』P145