イスケヨリ、改名するほど、ホトが嫌い
女陰がたくさん出てくる古事記。この女陰はやはり何かの象徴と考えてもよいと思います。その一つに、製鉄、踏鞴(タタラ、たたら)があります。

良い鉄は武器、農具に活かされた、はずの、当時の最重要資源。その割には、古事記にはその記述がほとんど出てこない、というのも妙です。

女陰と鉄を連想させるものに、「ホトと呼ばないで」と叫んだとかいないとか、初代神武天皇の皇后であるイスケヨリの名前があります。

イスケヨリは、名を富登多多良伊須須岐比売命(ほとたたらいすすきひめのみこと)と言いました。出生譚に「ホト(女陰)」が関係しているための命名だったようですが、これを後に、比売多多良伊須気余理比売(ひめたたらいすけよりひめ)としています。

改名前も改名後も「多多良」、つまりタタラ、製鉄を匂わす単語が盛り込まれています。イスケヨリは間違いなく、産鉄集団の一員だったのでしょう。ここでは鉄と「ホト」が非常に密接につながっています。

ホトは「火処」、タタラの炉

もともとホトは「火処」とも書き、砂鉄を溶かす炉、つまりはタタラの肝心かなめ、肝だとする説があります。

女陰は出産や誕生の象徴ばかりではなく、また地名として残っている湿地帯(濡れる、からの連想か)だけではなく、当時は「国をも取れる」と言われた貴重な資源としての鉄を生み出すもの、あるいは製鉄所(タタラ)そのものを指したのかもしれません。

そうすると、イザナミが火の神カグツチを産んだ際、女陰を負傷し、その負傷がもとで死亡してしまい、それを嘆き悲しんだ夫イザナギがカグツチを斬殺した、という話。これも象徴的な寓話なのかもしれません。

イザナミは、実はタタラそのものだった。あるいはタタラを象徴する何かだった。イザナギとの結婚、国産み、島産み、神産みも、タタラのフル稼働、つまり良質な鉄の大量生産を暗示させる。

そのコアである炉(つまり女陰)が、何者(ここではカグツチ)かによって破壊された。富の源泉、国造りに欠かせない資源としての鉄が生産不能に陥った、許されざる大罪を問われ、犯人カグツチは集団の掟によって処罰された。

とも考えられるわけです。

マンコは真処で、馬子

女陰はマンコとも言われます。これは、「真処(まこ、マコ)」から来ているそうです。字面から見ても、「コア」を連想させます。また、マンコは「馬子(まこ、うまこ)」とも言われるようです。

話しは少し逸れますが、そうすると、今話題となっている都塚古墳の被葬者と推定されている蘇我稲目の子、蘇我馬子(古事記には記述がありません)は、名前がそのものズバリで「蘇我氏のマンコ」(決して中傷ではありません)。

つまり、蘇我馬子は名前の通り一族史上最強の製鉄王だった、とも考えられます。それが強大な権勢の源泉だった、と。

それはともかく。ホト(火処)、マンコ(馬子)と考えていくと、スサノヲによる高天原での狼藉で、アマテラスが直接的にスサノヲにキレる場面も、やはり象徴的な話としても読み解けるかもしれません。

スサノヲが何を思ったのか、皮をはいだ馬を機屋の中に投げ込み、それに驚いたアマテラス付きの女官が、機織り機にぶつかって女陰を負傷し死亡するという事件が発生します。これをきっかけとして、アマテラスはキレて、天岩戸に隠れます。

その前までにスサノヲは、高天原の御殿に糞をまき散らしたり、田畑の溝などを破壊したり、狼藉三昧。しかし、それでもアマテラスは鷹揚に弟を許したものです。自宅を散らかされても、食糧生産を阻害されても、怒らなかったわけです。

それが、確かに女官が死亡するという痛ましい事件とはなってしまいましたが、ここでアマテラスがいきなりキレる、という展開、少し急なような気がします。

そのキーワードが馬と女陰、つまり馬子と火処、マンコとホト。スサノヲのこの狼藉は、高天原の最重要施設であったはずの、タタラを破壊してしまった、ということなのかもしれません。

富の源泉たるタタラの破壊は、決してあってはならないこと。また考えられない最悪のタブーだった。。だからこそ、あえて荒ぶる神スサノヲの罪業となった。。

男女の機微で解釈できるか

機屋というと、機織り女。民俗学的に高貴な方の一夜妻を連想させるといいます。その関係で、このスサノヲの狼藉は、スサノヲが他の女に手を出した、アマテラスの嫉妬か、とも考えられます。それを暗示するために女陰負傷という事態。

ただ、この二人、やはり姉弟で、そういう関係ではなかったのではないか、とも考えられます。いや、当然当時のことなので、実の姉弟とはいえ、合体関係になっても何もおかしくないのですが、その前に二人が行った誓約(うけい、つまりアマテラスとスサノヲの誓約)が、その理由です。

この誓約でそれぞれ子宝に恵まれます。アマテラスは男神五柱、スサノヲは女神三柱。これはアマテラスとスサノヲがチョメチョメした結果、とも取れるわけですが、しかし、二人の誓約は、それぞれの持ち物を相手方に渡して、それをそれぞれがかみ砕いて神産みする、というものです。

この方法を素直に読み解けば、スサノヲは一族の重要男神をアマテラスへ、アマテラスは一族の重要女神をスサノヲへ、それぞれがそれぞれに供出し、それぞれでチョメチョメしてお互い子作りに励んだ、という風に考えた方が、両者が直接に絡んで子どもをもうけた、と考えるよりは、妥当のような気がします。

そもそも男神のスサノヲが出産、というのも、まあ神代の話とは言え、少し無理があるような。実際、この後、スサノヲは複数の妻を娶り、子宝に恵まれますし。アマテラスが男神五柱、スサノヲが女神三柱、であって、アマテラスとスサノヲの子が男神五柱女神三柱ではありません、あくまでも。八王子との関連が指摘されますが、その中にアマテラスの子である男神五柱は含まれていません、多分。

いずれにしろ、そう考えた場合、機屋での事件はアマテラスの嫉妬ととらえることは難しくなり、上記のようにスサノヲによるタタラ破壊と考えた方が、アマテラスの怒りも理解できるような気がします。そもそも、スサノヲが投げ込んだという馬について、男女仲、嫉妬説では説明ができません。

天岩戸の解決にも女陰

最重要施設であるタタラが破壊されてしまった、もうダメだ、と思った時、世界崩壊の危険も顧みずに、天岩戸に身を隠してしまった、というのがアマテラスの当時の心境だったのかもしれません。

そして、天岩戸がどのように解決されたのか。

ここでも女陰が象徴的に登場してきます。もちろん、炎のストリッパー・アメノウズメのストリップでのことです。アメノウズメ、乳房と女陰を露わに踊り狂いますが、これは躍動的なホト、いわば「踊る女陰」を示しており、つまり破壊されたタタラの修復、あるいは新生を象徴しているのではないでしょうか。

だから、アマテラスは、八百万の神々が大騒ぎして楽しんでいるとして、天岩戸を少し開けて、外の様子をチラ見した、とも考えられるわけです。事が集団の最重要事項であるタタラに絡んでいるから。

天岩戸隠れは日食との関連が良く指摘されます。それも非常に説得力はあるとは思いますが、しかし、以上のように考えると、アマテラスが天岩戸から再び姿を現した時に発したと考えられる神々しい光は、再生したタタラに新たにともされた火を象徴しており、高天原で改めて製鉄していくぞ、つまり国力増強していくぞ、という表れだったのかもしれません。

女官の女陰負傷に始まり、アメノウズメによる女陰露わなストリップで終わる。つまり、ホトに始まり、ホトに終わった天岩戸隠れ、と言えるかもしれません。それをタタラという角度で読み解くと、意外とすんなり解釈できる、かも?

備考:
阿波(徳島県)の天岩戸立岩神社(あまのいわとたていわじんじゃ)は、ご神体が天岩戸とされる由緒正しい神社ですが、そこには「タタラ踊音頭」というものが伝わっている、とのことです。

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