木梨之軽王(きなしのかるのみこ=カルミコ)、実の妹カルノとの合体の感想を改めて吐露
以前統計して算出した、本サイトの本文における登録タグの集計において、「兄妹愛」、つまり同母、異母に関わらず兄と妹(姉と弟、というケースはごく少数)での恋愛ケースが、古事記の中で六つ確認できます。

同母兄妹による恋愛、ぶっちゃければ合体は、古代からタブー視されていた可能性があります。あまり古い時代になると、そこまで厳しい禁忌ではなかったのではないか、との指摘もあるようですが、遺伝のありさま、さらに言ってしまえば原始的な優生学は人類の経験上でもある程度学びえるものであって、あまりにも近しい近親相姦の結果得るものがなかなか伴わないもの、という認識は、古事記が描かれた時代にも普遍的に存在していたような気がします。

逆に異母兄妹の場合、これは古代においては普遍的に公認、あるいは積極的に合体が行われていたようです。いわば当時においては通常のことであり、驚くことではありませんでした。後述しますが、妹が多かったためか、女好き仁徳天皇は好んで異母妹との合体を望んでいます。

古事記を読んだ率直な感想として、神々及びその子孫としての天皇および皇族の人間関係の狭さが挙げられます。一族内だけで話が完結している、とは言い過ぎでも、外部との接触が極めて少ないとは言えそうです。そうした環境にある中で、ある男が抱いてみたい女に巡り合うとしたら、兄妹とは言え、母を異にする妹、というケースが多かったのではないでしょうか。それが異母妹との情事の多さにつながっているものと思われます。

まずは古事記の兄妹愛、六つのケースを羅列します。

アマテラススサノヲ誓約、これは形を変えた兄妹愛か?[本文

オオクニヌシ娘のシタテルと、アメノワカヒコの結婚も兄妹愛の暗喩?[本文

垂仁天皇の皇后サオビメと、実の兄であるサオビコとの叙事詩的愛[本文

仁徳天皇、皇后イワノの旅行中に浮気した相手ヤタノは義妹[本文

・仁徳天皇、所望し、義弟ハヤブサに仲介を頼んだ相手メドリも義妹[本文

・古事記最大の悲恋物語、允恭天皇元皇太子カルミコと実の妹カルノの愛[本文

アマテラスとスサノヲの誓約は、合体、あるいはそれを匂わすような描写はありません。古事記は合体物語であるはずなのに、高天原では合体が禁止されていたかのように、高天原での合体描写が古事記には出てこないのも特徴です。

ただ、アマテラスとスサノヲの誓約では、それぞれ父、母が不透明な子をもうけています(女神アマテラスの子として五柱の男神、男神スサノヲの子として三柱の女神=宗像三女神)。子の誕生は、やはり合体や結婚を象徴するものとして、今回兄妹愛の中に入れてみました。

それが真であれば、アマテラスとスサノヲはイザナギの禊から生まれた三貴子の二柱ということで、姉弟という関係になります。スサノヲは母を明確にイザナミと認識していた節がありますが、そもそもイザナミとの離婚後、イザナギ単独の禊で生まれたので、この二柱の母は不明、というのが正確なところでしょうか。

国譲りにおいて、高天原から葦原中国平定のために派遣されたアメノワカヒコが、オオクニヌシの娘であるシタテルに一目惚れして、ソッコー高天原を裏切り、オオクニヌシの娘婿的な、後継者になるという展開。そもそも国も違う(ように見える)し、血縁関係もないので、本来的には兄妹愛ではないのですが。

ただし、シタテルには実の兄にアヂスキタカヒコネがおり、結婚後はアメノワカヒコもこの義兄と親友になるようなのですが、容姿として、アメノワカヒコとアヂスキタカヒコネが極めてよく似ている、ということが古事記にも明記されています。そのため、この二柱は同一神格、という指摘もあり、その意味では同母兄妹による近親相姦、ということになります。

垂仁天皇の皇后サオビメと、実の兄であるサオビコの関係は、明確な兄妹愛、しかも同母兄妹による完全な近親相姦です。しかもこれは、NTRの時も触れましたが、垂仁天皇にとっては皇后をNTRされるというおまけつき。さらに、しかもこの説話、後述する、やはり同じく同母兄妹による近親相姦を描いたカルミコとカルノの話と並んで、古事記の中では秀逸とされる恋物語。

さて、仁徳天皇です。古事記では二例、異母兄妹との恋が描かれています。一例目はヤタノ。嫉妬狂いの皇后イワノが居ぬ間に浮気して思いを遂げた美女です。二例目は、ヤタノの実の妹に当たるメドリ。こちらは思いっきり振られた挙句、メドリとの仲介を頼んだ義弟ハヤブサにメドリを奪われた挙句、二人に反逆されるという悲惨な展開。

古事記の中ではなぜか影が薄い、それぞれの父である応神天皇は、古事記に登場する天皇の中でも極めて子だくさんで、皇后のほか、記録されているだけでも10人の妃がおり、そのうち、皇后と9人の妃との間に25人以上の子どもをもうけています。

仁徳天皇、ヤタノ、メドリ、ハヤブサももちろんその中に含まれていますが、仁徳天皇にとって、実姉を除くと、異母妹として14人ほどの妹が確認できます。この中からヤタノ、メドリを所望し、さらにもう一人を妃にしています。女好きの仁徳天皇のことだから、記録に残されたのがわずかなだけで、この14人の異母妹すべてに食指を伸ばしていたかも。

特に仁徳天皇は、皇后イワノに抑えつけられた、女好きなくせして恐妻家、という一面があり、イワノによる抑圧も、より身近な異母妹たちに目を向かせる要因になったのかもしれません。

さて、古事記の中で兄妹愛と言えば、やはり允恭天皇の子であるカルミコとカルノの実の兄妹同士の禁断の近親相姦による情事でしょう。ケースとしては、垂仁天皇の皇后サオとその実の兄サオビコと似てなくはないですが、どうしてもカルミコとカルノの話の方が有名なのは、本サイトの副題でもあるラブロマンス・オペラを地で行くような展開、歌による二人の情熱的な愛のやり取りが伝わってくる物語だからでしょうか。

特に、タブーを破る後ろめたさからためらった後(極々わずかなためらい)、思いを遂げた後のカルミコの歌、皇太子の地位も含めて何もかも失ってもよい! 最高! というはっちゃけた歌からは、エッチそのものがよほど良かったんだなーという面や、二人の情事の明るさがストレートに伝わってきます。しかしそれもつかの間の幸福、というところに、古事記最大の悲恋物語としての要素があるのでしょう。

ここには記載していませんが、カルミコを追放して即位した第二十代安康天皇は、従兄(オオクサカ)を誅殺して、その妻を奪い皇后としますが、それが実姉のナガタノの可能性があります。古事記を素直に読めばそうなります。ただ、通説ではナガタノは履中天皇の皇女になっているので、同母はもちろん異母でもない、親戚との結婚、ということになりますが、古事記の記述通りであれば、同母姉を皇后としてしまう、究極の近親相姦、と言えなくもありません。

古代日本のラブロマンス・オペラ、同母か異母かはともかく、兄妹愛がその主旋律の一つとなっていることは間違いなさそうです。

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