以前統計して算出した、本サイトの本文における登録タグの集計において、「女陰」、つまり女性器を直截的に表す言葉が物語上に現れてくる個所が七ヶ所あります。
古事記の全体の分量に比して、七ヶ所に女陰という言葉が出てくるのを多い少ないと即断はできないところではあります。比較対象としていいのかどうかは別として、皇祖神アマテラスの古事記での登場回数も六回にとどまります。
どちらにしろ古事記は、合体を中心とした恋愛物語の色彩が強く、女陰はその重要な要素ではあります。
ただ、男女間の営みの上での意味合いのほか、古事記、というよりは、古代日本において、“女陰”というものが何らかの意味合いを強く持っていたことは間違いのないことだと思われます。
まずはそれぞれ出てくる個所を確認してみます。
・神産みで、イザナミの死の原因は火の神を出産した時の女陰の負傷[本文]
・黄泉の国に行ったイザナミの体にいた雷神の中で一柱は女陰にいた[本文]
・天岩戸隠れのきっかけ、スサノヲの暴虐で亡くなった女官が負傷したのが女陰[本文]
・天岩戸隠れで、ストリッパーのアメノウズメ、女陰露わに踊る[本文]
・スサノヲが料理を出してくれた女神を惨殺した時、その死体の女陰から麦が誕生[本文]
・神武天皇皇后イスケヨリの出生譚において、母の女陰に赤い矢が突き刺さる[本文]
・天日矛(あめのひぼこ)説話で、その妻となる女性の出生譚でも女陰が登場[本文]
そもそもイザナミは「成長して、成長していないところ(女陰のこと)が1ヶ所あります」と言って、イザナギの「成長して、成長し過ぎたところ(男根のこと)」と合体させてみましょう、ということで日本初のSEXが始まることから考えても、如実に女陰が強調された女神と言えるかもしれません。
「成長して、成長していないところ」の原文は「成成不成合處一處在」、これが日本最初の女陰の形容、ということになります。
次いで、イザナミの死の原因となった火の神の出産において、女陰は原文として、「美蕃登」と表記されています。「番登」であれば、天岩戸の前でストリップをしたアメノウズメが女陰を露わに踊り狂いますが、その際の表記としてもつかわれています。
イザナミの体にいた八雷神のうち、女陰にもいた際の表記は「陰」。これは天岩戸隠れのきっかけとなったスサノヲの暴虐で女官が一人亡くなりますが、その際負傷した個所が女陰で、その表記にも使われ、またスサノヲが惨殺した女神の死体の女陰から麦が生えてきますが、その際もこの表記が使われています。天日矛説話での女陰も「陰」と表記されています。
神武天皇皇后イスケヨリの出生譚で、赤い矢に化けたオオモノヌシが美女の女陰に突き刺さる、というケースで使用されているのは「富登」。
「陰」がスタンダード、特別な意味合いがある時に「美蕃登」「番登」あるいは「富登」と使われたのかもしれません。
どちらにしろ、読みとしての「ほと」「ホト」が重視されたものと思われます。女性器の外陰部のような形状、形質(湿地帯など)、陰になる場所の地形を指すための地名として今も伝わっていますが、その「ホト」の語源や考察はこちらが詳しいのでご参考に。
そこに記載されている、女陰とは「突き出るように現れたものを治める入り口」として認識されており、男根やそこから発射される精子を受け止めるもの、そうして「新たなものを生み出す」ものと考えられていた、という点が、古事記でここまで女陰を推している理由の一つなのかもしれません。
現代人においてタブー視されることが多くなった、そこから転じて、それを表立って書くこと、表現することが下品なもの、卑猥なものと考える感覚、というのはあくまでも現代人のものであって、古事記世界においてはそんなことはなく、少なくともそれほど強く意識されたものではなく、むしろその“神聖さ”の方が重視されていたとも考えられます。
そうした意味で、女陰が強調された女神・イザナミはやはり日本の母、として、古事記の中で強く意識されて描かれたのかもしれません。
また、アマテラスは最初、スサノヲの高天原での暴虐を温かい目で許していたのに、女官が女陰を負傷して死亡してしまうことで一気にキレる、という展開、一つは、アマテラスとスサノヲは実はデキていたが、スサノヲがほかの女性にちょっかいを出し、それに激怒したアマテラスという構図の暗喩とも受け取れますが、女陰が傷つけられたこと、というのは、何らかの“神聖”かつ絶対的なタブーをスサノヲが犯したことを示しているのかもしれません。だから世界中が大変なことになると承知で、アマテラスは天岩戸に身を隠す事態になった、と考えれば理解しやすくなります。
天岩戸隠れに際して、アメノウズメがうつぶせにした特殊な桶の上に乗り、背をそり胸乳をあらわにし、裳の紐を股に押したれて、女陰をあらわにして、低く腰を落して足を踏みとどろかし、力強くエロティックに踊った、というのも、エロさを強調するばかりでなく、“神聖な”儀式を表現するための記述だった、と言えるかもしれません。
高天原を追放されたスサノヲが女神を惨殺、その死体から五穀が発生しますが、これは五穀の起源ともされています。女陰を含む死体の各部位から発生することで、食物の大切さ“神聖さ”が表現されているとも言えます。
高貴な人の出生譚で、今の感覚では下品と思われる女陰が顔を出すのも、結局はそうして生まれた子の“神聖さ”を表現するもの、つまり、だから初代神武天皇の皇后であるイスケヨリは高貴なのだ、そもそも神武自身が天の神の子孫で貴いのに、皇后も“女陰”説話のある神聖な方なんだ、と、その血統の優位性を示しているのかもしれません。
逆に言えば、それらと比べてぐっと時代が下った天日矛説話で、久しぶりに女陰が出てくるのも、何らかの意味合いがあるのかもしれません。その女陰から生まれたのは天日矛の妻となる阿加流比売(あかるひめ)で、古事記において、正直そこまで重要な役割を演じる方ではないのですが。。
ただ気になるのは、イスケヨリは最初の名前から改名していることです。最初の名前が「ホト」と付いているのが気になったから、と古事記には明記されており、やはり古事記においても「ホト」がネガティブ的なタブーの一つだったことがそこからわかります。
一つ言えるのは、古事記、あるいは古代日本において、女陰が現代とは違ったとらえ方をされていたということでしょう。女陰を推す古事記は下品で卑猥、という考え方は短絡的なのかもしれません。
【関連記事】
・日本の奇祭・性信仰 - “ココが変だよ日本人”? いやいや、日本の原点ともなる風習かも
・ホトに始まり、ホトに終わった天岩戸隠れ - タタラで読み解く古事記・女陰の謎
・【古事記の傾向と対策】続・ホトに始まり、ホトに終わった天岩戸隠れ - 今度は男根も
・ミス東大候補の秋山果穂さん「愛読書は、古事記」、林先生「古事記って、エロイよね?」
・「古事記は、世界最古のエロ本」なのか? そうとも言えるし、そこまで下卑なくても…
・古事記が“推している”キーワードを覗き見すると - 古事記の傾向と対策
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
古事記の全体の分量に比して、七ヶ所に女陰という言葉が出てくるのを多い少ないと即断はできないところではあります。比較対象としていいのかどうかは別として、皇祖神アマテラスの古事記での登場回数も六回にとどまります。
どちらにしろ古事記は、合体を中心とした恋愛物語の色彩が強く、女陰はその重要な要素ではあります。
ただ、男女間の営みの上での意味合いのほか、古事記、というよりは、古代日本において、“女陰”というものが何らかの意味合いを強く持っていたことは間違いのないことだと思われます。
まずはそれぞれ出てくる個所を確認してみます。
・神産みで、イザナミの死の原因は火の神を出産した時の女陰の負傷[本文]
・黄泉の国に行ったイザナミの体にいた雷神の中で一柱は女陰にいた[本文]
・天岩戸隠れのきっかけ、スサノヲの暴虐で亡くなった女官が負傷したのが女陰[本文]
・天岩戸隠れで、ストリッパーのアメノウズメ、女陰露わに踊る[本文]
・スサノヲが料理を出してくれた女神を惨殺した時、その死体の女陰から麦が誕生[本文]
・神武天皇皇后イスケヨリの出生譚において、母の女陰に赤い矢が突き刺さる[本文]
・天日矛(あめのひぼこ)説話で、その妻となる女性の出生譚でも女陰が登場[本文]
そもそもイザナミは「成長して、成長していないところ(女陰のこと)が1ヶ所あります」と言って、イザナギの「成長して、成長し過ぎたところ(男根のこと)」と合体させてみましょう、ということで日本初のSEXが始まることから考えても、如実に女陰が強調された女神と言えるかもしれません。
「成長して、成長していないところ」の原文は「成成不成合處一處在」、これが日本最初の女陰の形容、ということになります。
次いで、イザナミの死の原因となった火の神の出産において、女陰は原文として、「美蕃登」と表記されています。「番登」であれば、天岩戸の前でストリップをしたアメノウズメが女陰を露わに踊り狂いますが、その際の表記としてもつかわれています。
イザナミの体にいた八雷神のうち、女陰にもいた際の表記は「陰」。これは天岩戸隠れのきっかけとなったスサノヲの暴虐で女官が一人亡くなりますが、その際負傷した個所が女陰で、その表記にも使われ、またスサノヲが惨殺した女神の死体の女陰から麦が生えてきますが、その際もこの表記が使われています。天日矛説話での女陰も「陰」と表記されています。
神武天皇皇后イスケヨリの出生譚で、赤い矢に化けたオオモノヌシが美女の女陰に突き刺さる、というケースで使用されているのは「富登」。
「陰」がスタンダード、特別な意味合いがある時に「美蕃登」「番登」あるいは「富登」と使われたのかもしれません。
どちらにしろ、読みとしての「ほと」「ホト」が重視されたものと思われます。女性器の外陰部のような形状、形質(湿地帯など)、陰になる場所の地形を指すための地名として今も伝わっていますが、その「ホト」の語源や考察はこちらが詳しいのでご参考に。
そこに記載されている、女陰とは「突き出るように現れたものを治める入り口」として認識されており、男根やそこから発射される精子を受け止めるもの、そうして「新たなものを生み出す」ものと考えられていた、という点が、古事記でここまで女陰を推している理由の一つなのかもしれません。
現代人においてタブー視されることが多くなった、そこから転じて、それを表立って書くこと、表現することが下品なもの、卑猥なものと考える感覚、というのはあくまでも現代人のものであって、古事記世界においてはそんなことはなく、少なくともそれほど強く意識されたものではなく、むしろその“神聖さ”の方が重視されていたとも考えられます。
そうした意味で、女陰が強調された女神・イザナミはやはり日本の母、として、古事記の中で強く意識されて描かれたのかもしれません。
また、アマテラスは最初、スサノヲの高天原での暴虐を温かい目で許していたのに、女官が女陰を負傷して死亡してしまうことで一気にキレる、という展開、一つは、アマテラスとスサノヲは実はデキていたが、スサノヲがほかの女性にちょっかいを出し、それに激怒したアマテラスという構図の暗喩とも受け取れますが、女陰が傷つけられたこと、というのは、何らかの“神聖”かつ絶対的なタブーをスサノヲが犯したことを示しているのかもしれません。だから世界中が大変なことになると承知で、アマテラスは天岩戸に身を隠す事態になった、と考えれば理解しやすくなります。
天岩戸隠れに際して、アメノウズメがうつぶせにした特殊な桶の上に乗り、背をそり胸乳をあらわにし、裳の紐を股に押したれて、女陰をあらわにして、低く腰を落して足を踏みとどろかし、力強くエロティックに踊った、というのも、エロさを強調するばかりでなく、“神聖な”儀式を表現するための記述だった、と言えるかもしれません。
高天原を追放されたスサノヲが女神を惨殺、その死体から五穀が発生しますが、これは五穀の起源ともされています。女陰を含む死体の各部位から発生することで、食物の大切さ“神聖さ”が表現されているとも言えます。
高貴な人の出生譚で、今の感覚では下品と思われる女陰が顔を出すのも、結局はそうして生まれた子の“神聖さ”を表現するもの、つまり、だから初代神武天皇の皇后であるイスケヨリは高貴なのだ、そもそも神武自身が天の神の子孫で貴いのに、皇后も“女陰”説話のある神聖な方なんだ、と、その血統の優位性を示しているのかもしれません。
逆に言えば、それらと比べてぐっと時代が下った天日矛説話で、久しぶりに女陰が出てくるのも、何らかの意味合いがあるのかもしれません。その女陰から生まれたのは天日矛の妻となる阿加流比売(あかるひめ)で、古事記において、正直そこまで重要な役割を演じる方ではないのですが。。
ただ気になるのは、イスケヨリは最初の名前から改名していることです。最初の名前が「ホト」と付いているのが気になったから、と古事記には明記されており、やはり古事記においても「ホト」がネガティブ的なタブーの一つだったことがそこからわかります。
一つ言えるのは、古事記、あるいは古代日本において、女陰が現代とは違ったとらえ方をされていたということでしょう。女陰を推す古事記は下品で卑猥、という考え方は短絡的なのかもしれません。
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・「古事記は、世界最古のエロ本」なのか? そうとも言えるし、そこまで下卑なくても…
・古事記が“推している”キーワードを覗き見すると - 古事記の傾向と対策
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
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