邇藝速日命(にぎはやひのみこと)
『古事記』に記載のある男性。
初代神武天皇の東遷において、宿敵ナガスネヒコとの最終決戦に勝った後に『古事記』に登場してくる。「天の神の御子が天からお降りになったと聞いたので、後から追って降って来た」と言ったという。
その上で、天から持ってきた宝物を神武天皇に捧げた。
妻はナガスネヒコの妹であるトミヤスビメ。この夫婦には子のウマシマジがおり、ウマシマジは物部連、穂積臣、采女臣の祖となったという。
古事記では記載は少ないが、『先代旧事本紀』には非常に詳しく書かれており、日本古代史の主役の一人とも言える。その中で、アメノホアカリと同一神、あるいは同一人物とみられる個所も出ており、それを伝える伝承が、日本各地にある。
『先代旧事本紀』にしたがって、ニギハヤヒの伝承をまとめると下記のようになる。
-----------------
アマテラスは瑞穂国を治めるために子のアメノオシホミミを降臨させようとしたところ、アメノオシホミミにニギハヤヒという子が誕生、代わりにその子を降臨させたいと願い、アマテラスはこれを許す。
アマテラスは降臨するニギハヤヒに天璽瑞宝十種(あまつしるしみずたからとくさ)を授けた。天璽とは皇位の証しで、十種の神宝。
・沖津鏡(おきつかがみ)
・辺津鏡(へつかがみ)
・八握剣(やつかのつるぎ)
・生玉(いくたま)
・死返玉(まかるかへしのたま)
・足玉(たるたま)
・道返玉(ちかへしのたま)
・蛇比礼(おろちのひれ)
・蜂比礼(はちのひれ)
・品物之比礼(くさぐさのもののひれ)
ニギハヤヒは数多くの隋神・隋臣を伴って「天磐船」に乗り込み天降る。三十二人の将軍、五人の部の長、五人の造の長、二十五部隊、船長・梶取など。彼らが政権の担い手となり、ヤマト政権にまで受け継がれていく。
初めに河内国河上の哮峯(いかるがのみね)に天降り、それから大和国鳥見の白庭山に遷御した。
ニギハヤヒは天磐船に乗って大虚空(おおそら)を飛翔して国を見定め、「虚空見つ日本の国(そらみつやまとのくに)」と言う。
ニギハヤヒはナガスネヒコの妹・炊屋姫を妃とする。しかし妃の出産直前に亡くなる。タカミムスヒノカミは速飄(はやかぜ)を使者として送り、ニギハヤヒの屍骸を天上に迎えて、七日七夜哀しんだ。
ニギハヤヒの死後に生まれたのがウマシマジ。ウマシマジは母方の叔父ナガスネヒコを殺し、天璽瑞宝十種を神武天皇に献上し、帰服した。
-----------------
ニギハヤヒも天孫であり、その降臨は、記紀にあるニニギと酷似している。下記のように、随員も共通している部分がある。むしろこちらの方がより具体的であり、ニニギの伝承はニギハヤヒのものをアレンジしたものという説もある。ニギハヤヒの名前も、ニニギに先行する、という意味に読み取れなくはなく、一方で、後世の創作説もある。
天璽瑞宝十種には鏡、勾玉、剣という、のちの三種の神器が含まれているほか、オオクニヌシの黄泉の国における試練で、妻スセリがオオクニヌシの身を守るために取り出した秘密道具と似ているものが出てくる。
ニギハヤヒの死と葬儀の模様は、『古事記』におけるアメノワカヒコのものを思わせる。双方の説話とも、役どころは違うが、タカミムスヒノカミが絡んでいる。
神武天皇の東遷前に、ニギハヤヒが、当地豪族ナガスネヒコと協力して、国を作っていたことが描写されているのは間違いなく、現在までに様々なニギハヤヒ論が展開されている。
【主な登場場面】
・敵を歓待して騙し討ち、実兄殺されたリベンジも果たして東遷コンプリの神武天皇
【関連書籍】
・関裕二『神武東征とヤマト建国の謎 (PHP文庫)』 - ナガスネヒコ、ニギハヤヒ、神武天皇
・木村博昭『古代ヤマト王権の縁起と伝承―『記・紀』に消されたニギハヤヒ命の実像』
・近江雅和『記紀解体―アラハバキ神と古代史の原像』 - ニギハヤヒの正体を解明する
・坂本政道『ベールを脱いだ日本古代史 高次意識トートが語る』
・大野七三『日本国始め 饒速日大神の東遷』 - 先代旧事本紀からニギハヤヒの事跡復権
・安本美典『古代物部氏と『先代旧事本紀』謎―大和王朝以前に、饒速日の尊王朝があった』
【関連記事】
・熱田七社とは? - 熱田神宮とその別宮・摂社の式内主要7社の総称、剣と尾張国造の祖ら
・葛木二上神社 - 聖山・二上山の「岳の権現」、石上神宮・大和神社の元宮とも
・ご利益ごとに見る日本の神々 - 健康長寿、金運、開運、出世、交渉、良縁・縁結びなど
【ニギハヤヒを祀る神社】
・石上神宮 - 古事記などの伝承通りの神々や剣、崇神天皇の御世の創建の古社
・籠神社 - 国宝「海部氏系図」を伝えるもう一つのアマテラスの系譜、元伊勢の一つ
・廣瀬大社 - 御祭神はトヨウケビメとウカノミタマが習合、実はナガスネヒコ?
・忍山神社 - 三重県亀山市、サルタヒコ祀る元伊勢「奈其波志忍山宮」の伝承地
・聖神社(和泉市) - 信太の森付近の和泉国三宮、社殿は江戸初期の片桐且元による造営
・志貴御県坐神社 - 神武東遷で登場するエシキ、オトシキゆかりの崇神皇居跡、元伊勢
・等彌神社 - 紅葉とライトアップ、建国の聖地・鳥見山の西麓に鎮座する「能登宮」
・伊勢天照御祖神社 - 福岡県久留米市、大石神社とも ニギハヤヒを祀る式内の古社
・岩屋神社(京都市) - 陰陽二つの巨巌、ニギハヤヒとその両親神を祀る、縁結びなどの神
・小坂神社(金沢市) - 珠姫ゆかりの金沢五社、「春日さん」と親しまれる式内の古社
・新屋坐天照御魂神社(西福井) - 崇神朝の創建、藤原鎌足も参詣した歴史ある名神大社
・新屋坐天照御魂神社(西河原) - 「新屋神社」、往時は近郷の総社、本務は磯良神社
・新屋坐天照御魂神社(宿久庄) - 神功皇后期に西福井を分祀、式内「一座」の石碑
・日尾八幡神社 - 孝謙天皇の勅願所として社殿建立、脳・神経痛など東道後神社や展望台
・還熊八幡神社 - 松山秋祭りでは3体の喧嘩神輿「鉢合わせ」も、河野氏・加藤氏崇敬の社
・唐松神社 - 「女一代守神」女性の一生に関わる守護神で、全国から女性の参拝がある社
・石切剣箭神社 - 神武期に創祀、崇神期に整備、お百度参りや刀剣などが有名、東京分祀も
・藤白神社 - 鈴木氏の総本家、鈴木姓の発祥の地「鈴木屋敷」、藤代王子の旧址、獅子舞
・磐船神社(交野市) - 「天の磐船」を御神体とする天孫ニギハヤヒ降臨の地、岩窟めぐり
・石船神社(村上市) - ニギハヤヒが岩の船で来訪し奇跡を起こした地、岩船大祭が綿々と
・北野天神社(所沢市) - ヤマトタケルが創建した式内三社とも、前田利家お手植えの梅
・矢田坐久志玉比古神社 - 6世紀まで畿内随一の名社、重文の中世期社殿群が残る「航空祖神」
・飛行神社 - 京都八幡市、飛行原理を発見した二宮忠八が創建、航空機事故犠牲者を合祀
・青衾神社 - 高座結御子神社の母を祀る、熱田神宮の境外摂社で、式内の古社
・井関三神社 - 亀山に奥宮、順次合祀の3柱を祀る式内井関神社、開帳式や盆供養
・国津比古命神社 - 伊予国造が祖の饒速日尊を奉斎、10月に御輿を放る「風早の火事まつり」
・水主神社(城陽市) - 『延喜式神名帳』に十座と記された雨乞いの超大社、境内に別の式内
・野間神社(能勢町) - 飛鳥朝に石上神宮を勧請、能勢氏の崇敬、大ケヤキは国の天然記念物
・鳥見神社(印西市小林) - 崇神朝の勧請、景行天皇の鳥見ヶ丘、6世紀の道作古墳群
・渋川神社(八尾市) - 蘇我・物部の戦闘跡地か、戦国期の洪水で流出、7月夏祭りは逆祭
・六所神社(山添村) - 境内などに多数の磐座、御神体の岩の上に本殿で式内社名に合致?
・登弥神社 - 神武天皇が祭祀、登美連が祖を奉斎、春日を勧請、粥占いで知られる
・阿理莫神社 - 物部氏の後裔である安幕氏が饒速日命を奉斎、10月秋祭はだんじり祭り
・弓削神社(東弓削) - 式内二座の一座、物部氏の祖神を祀る河内国の三指に入った大社
・弓削神社(弓削町) - 式内二座の一座、近世は「府都大明神」、境内に延命水という霊水
・辛國神社 - 雄略朝の創建、物部氏の辛國氏が祭祀、式内「長野神社」を合祀
・鴨習太神社 - 明治までは天満宮、物部の信仰域か? 社名尊重で賀茂氏か?
・櫛玉命神社(明日香村) - 玉作連の祖神、長髄彦・饒速日命とも、広瀬郡式内との関係は?
・須牟地曽根神社 - 曽禰、つまり物部の住道神か、勝手明神、金岡神社に合祀も復社
・鏡作坐天照御魂神社 - 神鏡制作で試鋳した像鏡を奉斎、鏡作三所大明神、2月御田祭
・佐波波地祇神社(華川町) - 佐波山、山上に日本武尊の鏡塚、田村麻呂や頼義が祈願
・樟本神社(木の本) - 物部守屋の旧領地、社名由来のクスノキの大木は市保全樹木
・樟本神社(北木の本) - 物部守屋旧領、首洗いの池、誅滅記念の大聖勝軍寺が至近
・樟本神社(南木の本) - 日羅が創建した日羅寺、物部守屋が築城した「稲城」と地名譚
・物部神社(笛吹市) - 武内宿禰の巡視の際の創祀、御室山に鎮座した古くからの名社
・稲村神社(常陸太田市) - 日本武尊が「七代天神」を奉斎、物部系の久自国造、光圀の再興
・高屋神社(羽曳野市) - 物部系の高屋連の本貫地、明治に合祀も昭和に復社、安閑陵近く
・利雁神社 - 依羅氏が祖神を奉斎? 明治に合祀、いずれかの時期に復社
・畠田神社(明和町) - 明治に多数の式内を合祀、『倭姫命世記』の兵名胡神社も?
・白鳥神社(羽曳野市) - 白鳥陵の頂に鎮座の伊岐宮、明治に式内合祀、秋にだんじり
・穂積神社(四日市市) - 17ヶ村の惣社、川島明神「団子の宮」、伊勢神宮御厨の地
・丹生神社(多気町) - 縄文からの丹生鉱山、祈雨・祈晴の神、神宮古材と伊勢椿
・福王神社 - 聖徳太子ゆかり、神宮御厨の福王山に毘沙門天を祀る、天狗伝説
・越智神社(中野市) - もとは越智山に鎮座、山頂に奥社、江戸期の洪水で現在地に
・越智神社(須坂市) - 湧水池の多い当地に移住、近世は諏訪社、御神木と越智池
・天忍穂別神社 - 石舟神社、饒速日命が父を慕って土佐国に到来、大ヒノキ
・磐船大神社 - 磐船、浪石、燈明岩などの巨岩・奇岩、住吉信仰、10月にだんじり
・星田神社 - 交野大明神、江戸中期から住吉神、本殿は春日移し、平成の世に復興
・泉州航空神社 - 関西国際空港の建設を契機に創建された泉州磐船神社、例祭9月20日
・麻気神社(南越前町) - 継体天皇が皇女・麻績の病気平癒を祈念、村名は後に牧谷
・正八幡宮(三島小島) - もと石神鎮座の式内・八十子神社の論社、王子権現を合祀
・天照玉命神社(福知山市) - 「てんしょさん」雨乞いの宮、境内に大スギ
・鴨神社(赤磐市) - 上賀茂を勧請、往時は高150石、雷除けの神、2本の三本杉
・鴨神社(吉備中央町) - 平安前期の創建の式内社、10月に加茂大祭で神輿渡御
・石田神社(岩田茶屋ノ前) - 石田君の祖神、中世は物部系、惟喬親王の大将軍塚・御霊社
・津野神社(北仰) - 武内宿禰の伝承、4月に川上祭り、境内に式内論社・田部神社
・神田神社(金沢市神田) - 白山御供田の地に饒速日命を奉斎、明治期に白山社を合祀
・少名彦神社(金沢市) - 饒速日命を祀る神田神社、田上駅の地、鉱泉の霊験で薬師に
・神田神社(白山市) - 景行朝に竹内宿禰が勧請、たびたびの勅使下向、ケヤキの古樹
・矢田八幡神社 - 丹波道主命の命で物部祖神を奉斎、奈良期に八幡を勧請、式内論社
・天穂日命神社(鳥取市) - 因幡国造氏の氏神、往時宇部神社を上回る社格、六王大明神
・意非神社 - 竹内宿禰の矢が落ちた矢落谷の地の「大炊の神」、木製の幟と鳥居
・重浪神社 - 敷浪の丘に祀られた物部韓國連神津主命、降臨の御船岩や潔斎の地も
・置染神社 - もと長谷置染連の氏神、伊勢平氏ゆかりの地かつ氏神、清盛祖父の墓
・小山神社(桑名市) - 当地豪族の小山連が祖神を祀る、近世には「日光八龍社」
・加富神社(山田町) - 吉田ヶ原の加富森、秦氏が祖の神饒速日命を奉斎、10月渡御
・加富神社(波木町) - 鎮守の森、采女郷7ヶ村の総社、『古事記』三重の采女ゆかり
・明神社(津市芸濃町) - 伊勢内宮神領「舟底田御薗」、式内・志婆加支神社とも
【主な御神徳(ご利益)】
健康長寿、病気平癒、国土平安、交渉成功
ニギハヤヒの降臨の随員
■三十二人の防衛
・天香語山命(あめのかごやまのみこと):尾張連等祖=饒速日尊の御子
・天鈿売命(アメノウズメ):猿女君等祖
・天太玉命(フトダマ):忌部首等祖
・天児屋命(アメノコヤネ):中臣連等祖
・天櫛玉命(あめのくしだまのみこと):鴨県主等祖
・天道根命(ああめのみちねのみこと):川瀬造等祖
・天神玉命(あめのかむたまのみこと):三嶋県主等祖
・天椹野命(あめのくののみこと):中跡直等祖…奈加等神社(三重県鈴鹿市)
・天糠戸命(あめのぬかとのみこと):鏡作連等祖
・天明玉命(おめのあかるたまのみこと):玉作連等祖
・天牟良雲命(あめのむらくものみこと):度会神主等祖
・天背男命(あめのせおのみこと):山背久我直等祖
・天御陰命(あめのみかげのみこと):凡河内直等祖
・天造日女命(あめのつくりひめのみこと):阿曇連等祖
・天世平命(あめのよわけのみこと):久我直等祖
・天斗麻彌命(あめのとまねのみこと):額田部湯坐連等祖
・天背斗女命(あめのせとめのみこと):尾張中嶋海部直等祖
・天玉櫛彦命(あめのたまくしひこのみこと):間人連等祖
・天湯津彦命(あめのゆつひこのみこと):安芸国造等祖
・天神魂命(あめのかんむすひのみこと):葛野鴨県主等祖
・天三降命(あめのみくだりのみこと):豊田宇佐国造等祖
・天日神命(あめのひのかみのみこと):対馬県主等祖
・天乳速日命(あめのちはやひのみこと):広湍神麻続連等祖
・天八坂彦命(あめのやさかひこのみこと):伊勢神麻続連等祖
・天伊佐布魂命(あめのいさふたまのみこと):倭久連等祖
・天伊岐志邇保命(あめのいきしにほのみこと):山代国造等祖
・天活玉命(あめのいくたまのみこと):新田部直等祖
・天少彦根命(あめのすくなひこねのみこと):鳥取連等祖
・天事湯彦命(あめのことゆつひこのみこと):取尾連等祖
・八意思兼神の児 天表春命(オモイカネの子あめのうわはるのみこと):信乃阿智祝部等祖
・天天下春命(あめのしたはるのみこと):武蔵秩父国造等祖
・天月神命(あめのつきのかみのみこと):壱岐県主等祖
■五人の部の長
・物部造等の祖 天津麻良(アマツマラ)
・笠縫部等の祖 天勇蘇(あめのそそ)
・為奈部等の祖 天津赤占(あまつあかうら)
・十市部首等の祖 富々侶(ほほろ)
・筑紫弦田物部等の祖 天津赤星(あまつあかぼし)
■五人の造の長
・二田造
・大庭造
・舎人造
・勇蘇造
・坂戸造
■二十五軍
・二田物部
・須尺物部
・芹田物部
・赤間物部
・横田物部
・狭竹物部
・浮田物部
・肩野物部
・足田物部
・尋津物部
・田尻物部
・住跡物部
・久米物部
・讃岐三野物部
・大豆物部
・筑紫聞物部
・羽東物部
・相槻物部
・布都留物部
・播麻物部
・当麻物部
・鳥見物部
・嶋戸物部
・筑紫贄田物部
・巷宜物部
■船長・梶取など
・船長跡部首等の祖 天津羽原
・梶取阿刀造等の祖 天津麻良
・船子倭鍛師等の祖 天津真浦
・笠経等の祖 天津麻占
・曾曾笠縫等の祖 天都赤麻良
・為奈部等の祖 天津赤星
『古事記』に記載のある男性。
初代神武天皇の東遷において、宿敵ナガスネヒコとの最終決戦に勝った後に『古事記』に登場してくる。「天の神の御子が天からお降りになったと聞いたので、後から追って降って来た」と言ったという。
その上で、天から持ってきた宝物を神武天皇に捧げた。
妻はナガスネヒコの妹であるトミヤスビメ。この夫婦には子のウマシマジがおり、ウマシマジは物部連、穂積臣、采女臣の祖となったという。
古事記では記載は少ないが、『先代旧事本紀』には非常に詳しく書かれており、日本古代史の主役の一人とも言える。その中で、アメノホアカリと同一神、あるいは同一人物とみられる個所も出ており、それを伝える伝承が、日本各地にある。
『先代旧事本紀』にしたがって、ニギハヤヒの伝承をまとめると下記のようになる。
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アマテラスは瑞穂国を治めるために子のアメノオシホミミを降臨させようとしたところ、アメノオシホミミにニギハヤヒという子が誕生、代わりにその子を降臨させたいと願い、アマテラスはこれを許す。
アマテラスは降臨するニギハヤヒに天璽瑞宝十種(あまつしるしみずたからとくさ)を授けた。天璽とは皇位の証しで、十種の神宝。
・沖津鏡(おきつかがみ)
・辺津鏡(へつかがみ)
・八握剣(やつかのつるぎ)
・生玉(いくたま)
・死返玉(まかるかへしのたま)
・足玉(たるたま)
・道返玉(ちかへしのたま)
・蛇比礼(おろちのひれ)
・蜂比礼(はちのひれ)
・品物之比礼(くさぐさのもののひれ)
ニギハヤヒは数多くの隋神・隋臣を伴って「天磐船」に乗り込み天降る。三十二人の将軍、五人の部の長、五人の造の長、二十五部隊、船長・梶取など。彼らが政権の担い手となり、ヤマト政権にまで受け継がれていく。
初めに河内国河上の哮峯(いかるがのみね)に天降り、それから大和国鳥見の白庭山に遷御した。
ニギハヤヒは天磐船に乗って大虚空(おおそら)を飛翔して国を見定め、「虚空見つ日本の国(そらみつやまとのくに)」と言う。
ニギハヤヒはナガスネヒコの妹・炊屋姫を妃とする。しかし妃の出産直前に亡くなる。タカミムスヒノカミは速飄(はやかぜ)を使者として送り、ニギハヤヒの屍骸を天上に迎えて、七日七夜哀しんだ。
ニギハヤヒの死後に生まれたのがウマシマジ。ウマシマジは母方の叔父ナガスネヒコを殺し、天璽瑞宝十種を神武天皇に献上し、帰服した。
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ニギハヤヒも天孫であり、その降臨は、記紀にあるニニギと酷似している。下記のように、随員も共通している部分がある。むしろこちらの方がより具体的であり、ニニギの伝承はニギハヤヒのものをアレンジしたものという説もある。ニギハヤヒの名前も、ニニギに先行する、という意味に読み取れなくはなく、一方で、後世の創作説もある。
天璽瑞宝十種には鏡、勾玉、剣という、のちの三種の神器が含まれているほか、オオクニヌシの黄泉の国における試練で、妻スセリがオオクニヌシの身を守るために取り出した秘密道具と似ているものが出てくる。
ニギハヤヒの死と葬儀の模様は、『古事記』におけるアメノワカヒコのものを思わせる。双方の説話とも、役どころは違うが、タカミムスヒノカミが絡んでいる。
神武天皇の東遷前に、ニギハヤヒが、当地豪族ナガスネヒコと協力して、国を作っていたことが描写されているのは間違いなく、現在までに様々なニギハヤヒ論が展開されている。
【主な登場場面】
・敵を歓待して騙し討ち、実兄殺されたリベンジも果たして東遷コンプリの神武天皇
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・石上神宮 - 古事記などの伝承通りの神々や剣、崇神天皇の御世の創建の古社
・籠神社 - 国宝「海部氏系図」を伝えるもう一つのアマテラスの系譜、元伊勢の一つ
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・忍山神社 - 三重県亀山市、サルタヒコ祀る元伊勢「奈其波志忍山宮」の伝承地
・聖神社(和泉市) - 信太の森付近の和泉国三宮、社殿は江戸初期の片桐且元による造営
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・等彌神社 - 紅葉とライトアップ、建国の聖地・鳥見山の西麓に鎮座する「能登宮」
・伊勢天照御祖神社 - 福岡県久留米市、大石神社とも ニギハヤヒを祀る式内の古社
・岩屋神社(京都市) - 陰陽二つの巨巌、ニギハヤヒとその両親神を祀る、縁結びなどの神
・小坂神社(金沢市) - 珠姫ゆかりの金沢五社、「春日さん」と親しまれる式内の古社
・新屋坐天照御魂神社(西福井) - 崇神朝の創建、藤原鎌足も参詣した歴史ある名神大社
・新屋坐天照御魂神社(西河原) - 「新屋神社」、往時は近郷の総社、本務は磯良神社
・新屋坐天照御魂神社(宿久庄) - 神功皇后期に西福井を分祀、式内「一座」の石碑
・日尾八幡神社 - 孝謙天皇の勅願所として社殿建立、脳・神経痛など東道後神社や展望台
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・藤白神社 - 鈴木氏の総本家、鈴木姓の発祥の地「鈴木屋敷」、藤代王子の旧址、獅子舞
・磐船神社(交野市) - 「天の磐船」を御神体とする天孫ニギハヤヒ降臨の地、岩窟めぐり
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・北野天神社(所沢市) - ヤマトタケルが創建した式内三社とも、前田利家お手植えの梅
・矢田坐久志玉比古神社 - 6世紀まで畿内随一の名社、重文の中世期社殿群が残る「航空祖神」
・飛行神社 - 京都八幡市、飛行原理を発見した二宮忠八が創建、航空機事故犠牲者を合祀
・青衾神社 - 高座結御子神社の母を祀る、熱田神宮の境外摂社で、式内の古社
・井関三神社 - 亀山に奥宮、順次合祀の3柱を祀る式内井関神社、開帳式や盆供養
・国津比古命神社 - 伊予国造が祖の饒速日尊を奉斎、10月に御輿を放る「風早の火事まつり」
・水主神社(城陽市) - 『延喜式神名帳』に十座と記された雨乞いの超大社、境内に別の式内
・野間神社(能勢町) - 飛鳥朝に石上神宮を勧請、能勢氏の崇敬、大ケヤキは国の天然記念物
・鳥見神社(印西市小林) - 崇神朝の勧請、景行天皇の鳥見ヶ丘、6世紀の道作古墳群
・渋川神社(八尾市) - 蘇我・物部の戦闘跡地か、戦国期の洪水で流出、7月夏祭りは逆祭
・六所神社(山添村) - 境内などに多数の磐座、御神体の岩の上に本殿で式内社名に合致?
・登弥神社 - 神武天皇が祭祀、登美連が祖を奉斎、春日を勧請、粥占いで知られる
・阿理莫神社 - 物部氏の後裔である安幕氏が饒速日命を奉斎、10月秋祭はだんじり祭り
・弓削神社(東弓削) - 式内二座の一座、物部氏の祖神を祀る河内国の三指に入った大社
・弓削神社(弓削町) - 式内二座の一座、近世は「府都大明神」、境内に延命水という霊水
・辛國神社 - 雄略朝の創建、物部氏の辛國氏が祭祀、式内「長野神社」を合祀
・鴨習太神社 - 明治までは天満宮、物部の信仰域か? 社名尊重で賀茂氏か?
・櫛玉命神社(明日香村) - 玉作連の祖神、長髄彦・饒速日命とも、広瀬郡式内との関係は?
・須牟地曽根神社 - 曽禰、つまり物部の住道神か、勝手明神、金岡神社に合祀も復社
・鏡作坐天照御魂神社 - 神鏡制作で試鋳した像鏡を奉斎、鏡作三所大明神、2月御田祭
・佐波波地祇神社(華川町) - 佐波山、山上に日本武尊の鏡塚、田村麻呂や頼義が祈願
・樟本神社(木の本) - 物部守屋の旧領地、社名由来のクスノキの大木は市保全樹木
・樟本神社(北木の本) - 物部守屋旧領、首洗いの池、誅滅記念の大聖勝軍寺が至近
・樟本神社(南木の本) - 日羅が創建した日羅寺、物部守屋が築城した「稲城」と地名譚
・物部神社(笛吹市) - 武内宿禰の巡視の際の創祀、御室山に鎮座した古くからの名社
・稲村神社(常陸太田市) - 日本武尊が「七代天神」を奉斎、物部系の久自国造、光圀の再興
・高屋神社(羽曳野市) - 物部系の高屋連の本貫地、明治に合祀も昭和に復社、安閑陵近く
・利雁神社 - 依羅氏が祖神を奉斎? 明治に合祀、いずれかの時期に復社
・畠田神社(明和町) - 明治に多数の式内を合祀、『倭姫命世記』の兵名胡神社も?
・白鳥神社(羽曳野市) - 白鳥陵の頂に鎮座の伊岐宮、明治に式内合祀、秋にだんじり
・穂積神社(四日市市) - 17ヶ村の惣社、川島明神「団子の宮」、伊勢神宮御厨の地
・丹生神社(多気町) - 縄文からの丹生鉱山、祈雨・祈晴の神、神宮古材と伊勢椿
・福王神社 - 聖徳太子ゆかり、神宮御厨の福王山に毘沙門天を祀る、天狗伝説
・越智神社(中野市) - もとは越智山に鎮座、山頂に奥社、江戸期の洪水で現在地に
・越智神社(須坂市) - 湧水池の多い当地に移住、近世は諏訪社、御神木と越智池
・天忍穂別神社 - 石舟神社、饒速日命が父を慕って土佐国に到来、大ヒノキ
・磐船大神社 - 磐船、浪石、燈明岩などの巨岩・奇岩、住吉信仰、10月にだんじり
・星田神社 - 交野大明神、江戸中期から住吉神、本殿は春日移し、平成の世に復興
・泉州航空神社 - 関西国際空港の建設を契機に創建された泉州磐船神社、例祭9月20日
・麻気神社(南越前町) - 継体天皇が皇女・麻績の病気平癒を祈念、村名は後に牧谷
・正八幡宮(三島小島) - もと石神鎮座の式内・八十子神社の論社、王子権現を合祀
・天照玉命神社(福知山市) - 「てんしょさん」雨乞いの宮、境内に大スギ
・鴨神社(赤磐市) - 上賀茂を勧請、往時は高150石、雷除けの神、2本の三本杉
・鴨神社(吉備中央町) - 平安前期の創建の式内社、10月に加茂大祭で神輿渡御
・石田神社(岩田茶屋ノ前) - 石田君の祖神、中世は物部系、惟喬親王の大将軍塚・御霊社
・津野神社(北仰) - 武内宿禰の伝承、4月に川上祭り、境内に式内論社・田部神社
・神田神社(金沢市神田) - 白山御供田の地に饒速日命を奉斎、明治期に白山社を合祀
・少名彦神社(金沢市) - 饒速日命を祀る神田神社、田上駅の地、鉱泉の霊験で薬師に
・神田神社(白山市) - 景行朝に竹内宿禰が勧請、たびたびの勅使下向、ケヤキの古樹
・矢田八幡神社 - 丹波道主命の命で物部祖神を奉斎、奈良期に八幡を勧請、式内論社
・天穂日命神社(鳥取市) - 因幡国造氏の氏神、往時宇部神社を上回る社格、六王大明神
・意非神社 - 竹内宿禰の矢が落ちた矢落谷の地の「大炊の神」、木製の幟と鳥居
・重浪神社 - 敷浪の丘に祀られた物部韓國連神津主命、降臨の御船岩や潔斎の地も
・置染神社 - もと長谷置染連の氏神、伊勢平氏ゆかりの地かつ氏神、清盛祖父の墓
・小山神社(桑名市) - 当地豪族の小山連が祖神を祀る、近世には「日光八龍社」
・加富神社(山田町) - 吉田ヶ原の加富森、秦氏が祖の神饒速日命を奉斎、10月渡御
・加富神社(波木町) - 鎮守の森、采女郷7ヶ村の総社、『古事記』三重の采女ゆかり
・明神社(津市芸濃町) - 伊勢内宮神領「舟底田御薗」、式内・志婆加支神社とも
【主な御神徳(ご利益)】
健康長寿、病気平癒、国土平安、交渉成功
ニギハヤヒの降臨の随員
■三十二人の防衛
・天香語山命(あめのかごやまのみこと):尾張連等祖=饒速日尊の御子
・天鈿売命(アメノウズメ):猿女君等祖
・天太玉命(フトダマ):忌部首等祖
・天児屋命(アメノコヤネ):中臣連等祖
・天櫛玉命(あめのくしだまのみこと):鴨県主等祖
・天道根命(ああめのみちねのみこと):川瀬造等祖
・天神玉命(あめのかむたまのみこと):三嶋県主等祖
・天椹野命(あめのくののみこと):中跡直等祖…奈加等神社(三重県鈴鹿市)
・天糠戸命(あめのぬかとのみこと):鏡作連等祖
・天明玉命(おめのあかるたまのみこと):玉作連等祖
・天牟良雲命(あめのむらくものみこと):度会神主等祖
・天背男命(あめのせおのみこと):山背久我直等祖
・天御陰命(あめのみかげのみこと):凡河内直等祖
・天造日女命(あめのつくりひめのみこと):阿曇連等祖
・天世平命(あめのよわけのみこと):久我直等祖
・天斗麻彌命(あめのとまねのみこと):額田部湯坐連等祖
・天背斗女命(あめのせとめのみこと):尾張中嶋海部直等祖
・天玉櫛彦命(あめのたまくしひこのみこと):間人連等祖
・天湯津彦命(あめのゆつひこのみこと):安芸国造等祖
・天神魂命(あめのかんむすひのみこと):葛野鴨県主等祖
・天三降命(あめのみくだりのみこと):豊田宇佐国造等祖
・天日神命(あめのひのかみのみこと):対馬県主等祖
・天乳速日命(あめのちはやひのみこと):広湍神麻続連等祖
・天八坂彦命(あめのやさかひこのみこと):伊勢神麻続連等祖
・天伊佐布魂命(あめのいさふたまのみこと):倭久連等祖
・天伊岐志邇保命(あめのいきしにほのみこと):山代国造等祖
・天活玉命(あめのいくたまのみこと):新田部直等祖
・天少彦根命(あめのすくなひこねのみこと):鳥取連等祖
・天事湯彦命(あめのことゆつひこのみこと):取尾連等祖
・八意思兼神の児 天表春命(オモイカネの子あめのうわはるのみこと):信乃阿智祝部等祖
・天天下春命(あめのしたはるのみこと):武蔵秩父国造等祖
・天月神命(あめのつきのかみのみこと):壱岐県主等祖
■五人の部の長
・物部造等の祖 天津麻良(アマツマラ)
・笠縫部等の祖 天勇蘇(あめのそそ)
・為奈部等の祖 天津赤占(あまつあかうら)
・十市部首等の祖 富々侶(ほほろ)
・筑紫弦田物部等の祖 天津赤星(あまつあかぼし)
■五人の造の長
・二田造
・大庭造
・舎人造
・勇蘇造
・坂戸造
■二十五軍
・二田物部
・須尺物部
・芹田物部
・赤間物部
・横田物部
・狭竹物部
・浮田物部
・肩野物部
・足田物部
・尋津物部
・田尻物部
・住跡物部
・久米物部
・讃岐三野物部
・大豆物部
・筑紫聞物部
・羽東物部
・相槻物部
・布都留物部
・播麻物部
・当麻物部
・鳥見物部
・嶋戸物部
・筑紫贄田物部
・巷宜物部
■船長・梶取など
・船長跡部首等の祖 天津羽原
・梶取阿刀造等の祖 天津麻良
・船子倭鍛師等の祖 天津真浦
・笠経等の祖 天津麻占
・曾曾笠縫等の祖 天都赤麻良
・為奈部等の祖 天津赤星
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