宇治川の渡し場に立っている、
弓を作るマユミの木よ。
それを切りたいと、心に思うけど、
それを取りたいと、心に思うけど、
本の方は君のことが思い出され、
末の方は妻のことが思い出され~、
慰めようもなく、君のことを思い出し、
悲しくも、妻のことを思い出し、
それを切らずに戻って来たよ~
弓を作るマユミの木よ。
それを切りたいと、心に思うけど、
それを取りたいと、心に思うけど、
本の方は君のことが思い出され、
末の方は妻のことが思い出され~、
慰めようもなく、君のことを思い出し、
悲しくも、妻のことを思い出し、
それを切らずに戻って来たよ~
歌い手:宇遅能和紀郎子(うじのわきのいらつこ=和紀郎子)
出 典:応神天皇崩御、すぐ兄弟間で戦争へ あの手この手を講じて、勝利は誰の手に?
章立て:13.応神天皇
応神天皇の崩御の後、応神の生前の指示によって遠ざけられていた皇子・大山守命が、応神の皇太子である宇遅能和紀郎子(うじのわきのいらつこ=和紀郎子)に反旗を翻します。
和紀郎子はある種の陽動作戦、平たく言えば騙し討ちする形で、大山守命の反乱軍を崩壊させることに成功、統帥の大山守命は、宇治川に落ち、命乞いの歌を詠みますが許されず、そのまま落命します。その時に、和紀郎子が歌った歌がこれです。
君や妻に引っ掛けて、大山守命の死を悼んではいるのだと思います。異母とはいえ、兄弟だったし、おそらく和紀郎子は心優しい皇太子だったと思われるからです。実際、川底から引き揚げた大山守命の遺骸を奈良山に丁重に葬っています。
しかし、切りたい、取りたいと思っていたマユミの木を結局は取らずに帰って来たよ、と、あたかも大山守命に報告しているような感じになっています。疑えば、この内乱の黒幕(であってもおかしくないし、もしかすると和紀郎子も疑っていたか)である大雀命(おおさざきのみこと)を暗に指弾しているのかもしれません。
この後、和紀郎子は大雀命と皇位を譲り合うわけですが、皇太子なのだからいくら心根が優しくてもそのまま皇位に就けばいいはずです。大雀命にそこまで配慮する訳があったのでしょう。結局、和紀郎子が急死(あ・や・し・い?)して、大雀命が即位します。仁徳天皇です。
※下記は、現代語譯 古事記 稗田の阿禮、太の安萬侶 武田祐吉訳による現代語訳。上のぶっちゃけ訳とも見比べてください。
流れの早い宇治川の渡場に
渡場に立つている梓弓とマユミの木、
切ろうと心には思うが
取ろうと心には思うが、
本の方では君を思い出し
末の方では妻を思い出し
いらだたしく其處で思い出し
かわいそうに其處で思い出し、
切らないで來た梓弓とマユミの木。
渡場に立つている梓弓とマユミの木、
切ろうと心には思うが
取ろうと心には思うが、
本の方では君を思い出し
末の方では妻を思い出し
いらだたしく其處で思い出し
かわいそうに其處で思い出し、
切らないで來た梓弓とマユミの木。
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