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古事記を彩る姫たちエントリーNO.25 袁杼比賣(をどひめ=ヲドヒメ)

丸邇(わに)の佐都紀臣(さつきのおみ)の娘。雄略天皇の妃の一人。

同じ丸邇、あるいは和珥(わき)の一族の出身者に、応神天皇の妃の一人・宮主矢河枝比売(みやぬしやかわえひめ=ヤカワエヒメ)がいます。ひとりは宇治、ひとりは春日なので、系統は違うのかもしれませんが。

このヲドヒメ、雄略天皇による特徴的な歌で有名な姫です。

まずは、雄略天皇がヲドヒメを娶ろうと、春日に出向いた時に詠んだ歌

袁杼比賣(をどひめ=ヲドヒメ)縦500px 雄略天皇が近づいてくると、ヲドヒメ、恥ずかしがったのか、草が生い茂る丘に逃げ隠れようとします。それを見た雄略天皇が、「丈夫な鎌がたくさんあれば~ お前の隠れた丘の草を全部刈って、オマエの姿を露わにできるのに~」と歌います。

古事記ではとりあえずここまでの話です。想像をたくましくすれば、この後、恥ずかしがるヲドヒメを、がつがつ雄略天皇は捕まえて、羞恥心からイヤイヤするヲドヒメを組み敷いて、思いを成就させたことでしょう。

さて、古事記のその後。いきなり長谷での宴会の話になります。若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)の時にも出てきましたが、ちょっとした事件が発生します。

雄略天皇に盃を献じようとした三重の采女ですが、その盃に葉っぱが入ってしまい、それに気づかずに、雄略天皇に献じようとしたところ、雄略天皇ソッコー抜刀、三重の采女を打ち首にしようとしました。

三重の采女はそれを制して歌います。その歌にほだされた雄略天皇はこの采女を赦します。そうして、ワカクサカが歌います

ワカクサカの歌に続き、雄略天皇が二首歌います。そのうちの最後の一首がヲドヒメちゃんに向けられた歌です。

いくつかの解釈はあるようですが、三浦佑之『口語訳 古事記 人代篇』文春文庫、2006年12月では、雄略天皇は自分の一物をヲドヒメに握れ、握ってほしい、というように訳出ししています。

状況から考えると、大きな宴会で、皇后のワカクサカはじめ、大勢の人が参加していると思いますが、そんなさ中に、座興的な酒席での歌とはいえ、みめ麗しい姫に向かってはっきりと手コキをお願いしている、強要している、ということになります。。

とにかく、記録されている日本最古の手コキ、ということになりそうです。

恥ずかしがり屋のヲドヒメちゃんですが、この歌を受け、まじめに返します。古事記におけるヲドヒメちゃん唯一の歌です。「あなたの、肘をかける脇息の下の板になりたいわ~ 愛しいあなた~」。

受け入れ態勢万全ですね。この後、二人は熱い夜を過ごしたことでしょう。

さて、このヲドヒメ、日本書紀に出てくる雄略天皇の妃の一人・和珥深目(わきのふかめ)の娘・童女君(おみなぎみ)と同一視されることがあります。しかし、日本書紀の童女君と古事記のヲドヒメは、父系に共通項は見えますが、残されているエピソードには大きな違いがあります。

童女君の方は、采女として登場します。雄略天皇と一夜を共にし、子どもができます。一夜しか共にしていないのに子どもができたことを訝しみ、他の男の子ではないかと考えた雄略天皇はその子どもを認知しません。しかし、大臣に諭され、その一夜に七回発射したことを告白(精力旺盛すぎ!?)し、童女君を妃に、子どもも認知します。

この子どもが、春日大郎女(かすがのおおいらつめのひめみこ)、後の仁賢天皇の皇后となります。

古事記でも、ヲドヒメ登場場面では、三重の采女が出てきますが、古事記だけで、この三重の采女とヲドヒメを同一人物に比定するには難しいストーリー展開ではあります。

ただし、象徴的なシーンの割に、古事記の中に収録されている歌の中でも一二を争う長い歌(抜刀している天皇への命乞いなので、それはもちろん必死で、それで長くなったのでしょうが)を残している三重の采女が、いったい何者なのかは不透明。登場も何の前触れもなく突然です。

雄略天皇縦480px1.雄略天皇、ヲドヒメに求愛「オマエを露わにするぜ~」
2.いきなり長谷での酒宴の場面。三重の采女の粗相、命乞いの歌
3.皇后ワカクサカが仕切り直しを図る歌
4.雄略天皇がワカクサカに返す歌。
5.雄略天皇がヲドヒメに手コキを強要する歌
6.ヲドヒメが雄略天皇を受け入れる歌

以上のように2の三重の采女の場面が物語の進行上からぽっかり浮いてしまっているのが実際です。2が実は雄略天皇とヲドヒメの出会いの馴れ初め、という風に理解すれば、この回の古事記の話にも流れができ、日本書紀の記述とも少し関連性が出てきそうです。

もちろん、三重の采女をヲドヒメにすることにはいろいろ難しい所があります。春日と三重では違いすぎますし、そもそもなぜ三重なのでしょう?

謎が謎を呼ぶ、でも雄略天皇には公衆の面前で手コキを懇願、強要される、そんな美女がヲドヒメです。

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日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次

【関連キャラ】
ヲドヒメ - 恥ずかしがり屋の姫、雄略に弄ばれる 
雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君
ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫