古事記を彩る姫たちエントリーNO.23 若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)
仁徳天皇の皇女。母は髪長比売(かみながひめ=カミナガ)です。実兄に、安康天皇に誅された大日下王(おおくさかのみこ)がいます。
雄略天皇の皇后。
草香幡梭姫皇女(くさかのはたびひめのひめみこ)、若日下部王(わかくさかべのみこと)、波多毘能若郎女(はたびのわきいらつめ)などとも呼ばれます。
安康天皇が実弟の雄略天皇に、ワカクサカを娶せたいと考えて、ワカクサカの実兄・大日下王に諮ったが、間に立った使者の讒言を信じた安康天皇が大日下王を殺っちゃいます。この頃の皇族、本当に殺伐としています。それほどわが身の危うい世の中だったのでしょう。殺られる前に殺っちまえ的なところ、全開です。
大日下王を誅した安康天皇がまずやったことは、そもそもの背景であった雄略―ワカクサカの結婚、ではなく、大日下王の妃・長田大郎女(ながたのおおいらつめ=ナガタノ)を奪い、自分の皇后にすること。そのため、この大日下王の殺害には、使者の讒言もさることながら、安康天皇のナガタノ奪取という目的があったのではないかと思われます。皇族が女の取り合いで、殺し合い。。
ともかく、安康天皇は皇后にしたナガタノの連れ子で弱冠七歳の眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)に暗殺されます。マヨワにとって安康天皇は実父の敵。その事実を知ったマヨワのソッコーの行動力でした。恐ろしい七歳です。
この混乱を鎮め、最終的にはマヨワを死に追いやったのが雄略天皇。その後も雄略天皇はいとこを殺害するなど、若干の混乱が続きますが、そうしてようやくワカクサカ登場、雄略とワカクサカの結婚となります。
嫁取りにワカクサカちゃんの家に来た雄略天皇に、ワカクサカちゃん、二つ返事で宮中に入ることを決断。宮殿に帰る途中、雄略天皇はワカクサカちゃんに「まだ“くんずほぐれつ”してないけど~、後日たくさん“しよう”ね~」という歌を送ります。
ごたごたが続いて、待たされた雄略天皇、辛抱たまらん状態が伝わってきます。
その後、古代日本のジャイアン、傍若無人の雄略天皇の話がいくつかあったりして、やはり女好きの雄略が新たな愛人・袁杼比賣(をどひめ=ヲドヒメ)を手に入れた後の酒宴で、またワカクサカちゃんは登場します。正妻、愛人が同席した酒宴。仁徳天皇の皇后・石之日売命(いわのひめのみこと=イワノ)だったらちゃぶ台を蹴り上げて退場しそうですが、ワカクサカちゃん、落ち着いたものです。
その酒宴で粗相のあった采女をソッコー斬首しようとした雄略天皇は、采女の弁解の歌にほだされて、斬首を取り止めます。仕切り直しに、とばかりにワカクサカちゃんが歌います。荒々しい雄略天皇に仕えるにはこれぐらい空気が読めて、配慮がなければダメ、ということですかね。
その後、愛人ヲドヒメも歌います。正妻、愛人が同席しているにもかかわらず、何とも和気藹々さ。雄略天皇の荒々しさをうまく吸収しています。まさに、皇后ワカクサカの人柄のたまものでしょうか。
若く美しい姫として評判(雄略天皇が目をかけた美童女・赤猪子(あかいこ=アカイコ)もそれを嫉む歌を歌っています)だったワカクサカの古事記での出番もここまで。
古来より、(草香幡梭姫皇女(くさかのはたびひめのひめみこ)のほうの)名がほとんど同じ履中天皇の皇后・草香幡梭皇女(くさかのはたびのひめみこ)と同一人物という説があるようです。
・履中皇后は、父が応神天皇、母が日向泉長媛。
・雄略皇后(=ワカクサカ)は、父が仁徳天皇、母が日向髪長媛(=カミナガ)。
母の名前まで似ている。。ワカクサカ母のカミナガは、応神天皇が最初召し上げたものの、子の仁徳天皇が惚れて、父に懇願して、譲ってもらったという経緯があります。
時代的に同一人物としたとしても、おかしいわけではないですが、カミナガは初め応神天皇が手を付け、履中皇后を産み、その後仁徳天皇に譲られ、ワカクサカを産んだ、と考えれば、つまり履中皇后とワカクサカは異父同母姉妹ということもあり得ないわけではないかもしれません。
古事記では、応神がカミナガに手を付ける前に、仁徳に譲った、というような書き方ではあるのですが。
ただ、異父同母という状況は古事記にも他に例がなく、ありそうだった、
・神武天皇―皇后イスケヨリ
・神武の前妻の子タギシミミ―妻イスケヨリ
も結局はタギシミミが滅ぼされるなど、古代においてタブーに近かった(生母以外の、父親の女を相続するのは許されていたのだから、完全なタブーではなかったはず)かもしれません。
履中皇后の子が安康皇后ナガタノで、孫が安康天皇殺害犯マヨワです。雄略皇后の実兄が安康皇后ナガタノの元旦那で、甥が安康天皇殺害犯マヨワです。履中皇后=ワカクサカ(雄略皇后)となると……もう爆発寸前。
ともかく、大悪天皇とも称される雄略天皇。そのジャイアン振りは本文(いとこが無礼だからソッコー殺っちゃう | あの家気に入らないから燃やせ | 美童女に嫁行くなと言っておいて70年ほったらかし | 神様にもケンカ売る | 多少の粗相でもすぐ殺そうとする)を見ていただくとして、後年、その時の天皇の命令によって陵墓が破壊されかけたほど(天皇の命令による陵が破壊されそうになった天皇は日本史上唯一?)の天皇です。
そんな日本史上有数の特徴ある天皇を、皇后として支え続けたワカクサカ。よほどの包容力と明るさ、前向きさがなければできないこと。
ワカクサカの歌やセリフは古事記にはやはり非常に少ないですが、そうした事実だけでもその人柄がにじみ出るようです。
※画像は、雄略天皇。おっことぬしみたいなイノシシを退治していますが、実際は…。ジャイアン雄略、ちょっとカッコ悪っ!(出典:Wikipedia)
【関連記事】
・盃に葉っぱが入ってしまったので、その盃を献上した女を殺そうとする雄略天皇
・オマエ可愛いから大人になっても嫁行くな」と雄略天皇に言われた童女の顛末
・雄略天皇「あの家、気に入らね、燃やせ」 嫁取りで早くエッチしたくて歌った歌
・佞臣の讒言を信じて忠臣を殺した安康天皇は、連れ子に仇討されて果てる
・ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫
・雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君
・アカイコ - 無常! 暴君・雄略に青春を奪われた姫
・ヲドヒメ - 恥ずかしがり屋の姫、雄略に弄ばれる
仁徳天皇の皇女。母は髪長比売(かみながひめ=カミナガ)です。実兄に、安康天皇に誅された大日下王(おおくさかのみこ)がいます。
雄略天皇の皇后。
草香幡梭姫皇女(くさかのはたびひめのひめみこ)、若日下部王(わかくさかべのみこと)、波多毘能若郎女(はたびのわきいらつめ)などとも呼ばれます。
安康天皇が実弟の雄略天皇に、ワカクサカを娶せたいと考えて、ワカクサカの実兄・大日下王に諮ったが、間に立った使者の讒言を信じた安康天皇が大日下王を殺っちゃいます。この頃の皇族、本当に殺伐としています。それほどわが身の危うい世の中だったのでしょう。殺られる前に殺っちまえ的なところ、全開です。
大日下王を誅した安康天皇がまずやったことは、そもそもの背景であった雄略―ワカクサカの結婚、ではなく、大日下王の妃・長田大郎女(ながたのおおいらつめ=ナガタノ)を奪い、自分の皇后にすること。そのため、この大日下王の殺害には、使者の讒言もさることながら、安康天皇のナガタノ奪取という目的があったのではないかと思われます。皇族が女の取り合いで、殺し合い。。
ともかく、安康天皇は皇后にしたナガタノの連れ子で弱冠七歳の眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)に暗殺されます。マヨワにとって安康天皇は実父の敵。その事実を知ったマヨワのソッコーの行動力でした。恐ろしい七歳です。
この混乱を鎮め、最終的にはマヨワを死に追いやったのが雄略天皇。その後も雄略天皇はいとこを殺害するなど、若干の混乱が続きますが、そうしてようやくワカクサカ登場、雄略とワカクサカの結婚となります。
嫁取りにワカクサカちゃんの家に来た雄略天皇に、ワカクサカちゃん、二つ返事で宮中に入ることを決断。宮殿に帰る途中、雄略天皇はワカクサカちゃんに「まだ“くんずほぐれつ”してないけど~、後日たくさん“しよう”ね~」という歌を送ります。
ごたごたが続いて、待たされた雄略天皇、辛抱たまらん状態が伝わってきます。
その後、古代日本のジャイアン、傍若無人の雄略天皇の話がいくつかあったりして、やはり女好きの雄略が新たな愛人・袁杼比賣(をどひめ=ヲドヒメ)を手に入れた後の酒宴で、またワカクサカちゃんは登場します。正妻、愛人が同席した酒宴。仁徳天皇の皇后・石之日売命(いわのひめのみこと=イワノ)だったらちゃぶ台を蹴り上げて退場しそうですが、ワカクサカちゃん、落ち着いたものです。
その酒宴で粗相のあった采女をソッコー斬首しようとした雄略天皇は、采女の弁解の歌にほだされて、斬首を取り止めます。仕切り直しに、とばかりにワカクサカちゃんが歌います。荒々しい雄略天皇に仕えるにはこれぐらい空気が読めて、配慮がなければダメ、ということですかね。
その後、愛人ヲドヒメも歌います。正妻、愛人が同席しているにもかかわらず、何とも和気藹々さ。雄略天皇の荒々しさをうまく吸収しています。まさに、皇后ワカクサカの人柄のたまものでしょうか。
若く美しい姫として評判(雄略天皇が目をかけた美童女・赤猪子(あかいこ=アカイコ)もそれを嫉む歌を歌っています)だったワカクサカの古事記での出番もここまで。
古来より、(草香幡梭姫皇女(くさかのはたびひめのひめみこ)のほうの)名がほとんど同じ履中天皇の皇后・草香幡梭皇女(くさかのはたびのひめみこ)と同一人物という説があるようです。
・履中皇后は、父が応神天皇、母が日向泉長媛。
・雄略皇后(=ワカクサカ)は、父が仁徳天皇、母が日向髪長媛(=カミナガ)。
母の名前まで似ている。。ワカクサカ母のカミナガは、応神天皇が最初召し上げたものの、子の仁徳天皇が惚れて、父に懇願して、譲ってもらったという経緯があります。
時代的に同一人物としたとしても、おかしいわけではないですが、カミナガは初め応神天皇が手を付け、履中皇后を産み、その後仁徳天皇に譲られ、ワカクサカを産んだ、と考えれば、つまり履中皇后とワカクサカは異父同母姉妹ということもあり得ないわけではないかもしれません。
古事記では、応神がカミナガに手を付ける前に、仁徳に譲った、というような書き方ではあるのですが。
ただ、異父同母という状況は古事記にも他に例がなく、ありそうだった、
・神武天皇―皇后イスケヨリ
・神武の前妻の子タギシミミ―妻イスケヨリ
も結局はタギシミミが滅ぼされるなど、古代においてタブーに近かった(生母以外の、父親の女を相続するのは許されていたのだから、完全なタブーではなかったはず)かもしれません。
履中皇后の子が安康皇后ナガタノで、孫が安康天皇殺害犯マヨワです。雄略皇后の実兄が安康皇后ナガタノの元旦那で、甥が安康天皇殺害犯マヨワです。履中皇后=ワカクサカ(雄略皇后)となると……もう爆発寸前。
ともかく、大悪天皇とも称される雄略天皇。そのジャイアン振りは本文(いとこが無礼だからソッコー殺っちゃう | あの家気に入らないから燃やせ | 美童女に嫁行くなと言っておいて70年ほったらかし | 神様にもケンカ売る | 多少の粗相でもすぐ殺そうとする)を見ていただくとして、後年、その時の天皇の命令によって陵墓が破壊されかけたほど(天皇の命令による陵が破壊されそうになった天皇は日本史上唯一?)の天皇です。
そんな日本史上有数の特徴ある天皇を、皇后として支え続けたワカクサカ。よほどの包容力と明るさ、前向きさがなければできないこと。
ワカクサカの歌やセリフは古事記にはやはり非常に少ないですが、そうした事実だけでもその人柄がにじみ出るようです。
※画像は、雄略天皇。おっことぬしみたいなイノシシを退治していますが、実際は…。ジャイアン雄略、ちょっとカッコ悪っ!(出典:Wikipedia)
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・盃に葉っぱが入ってしまったので、その盃を献上した女を殺そうとする雄略天皇
・オマエ可愛いから大人になっても嫁行くな」と雄略天皇に言われた童女の顛末
・雄略天皇「あの家、気に入らね、燃やせ」 嫁取りで早くエッチしたくて歌った歌
・佞臣の讒言を信じて忠臣を殺した安康天皇は、連れ子に仇討されて果てる
・ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫
・雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君
・アカイコ - 無常! 暴君・雄略に青春を奪われた姫
・ヲドヒメ - 恥ずかしがり屋の姫、雄略に弄ばれる
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