古事記を彩る姫たちエントリーNO.22 長田大郎女(ながたのおおいらつめ=ナガタノ)
履中天皇の皇女。仁徳天皇の皇子・大日下王(おおくさかのみこ)と結婚、一子をもうけますが、ダンナが安康天皇に誅されると、安康天皇に奪われ、皇后とされます。
中蒂姫命(なかしひめ)、中磯皇女(なかしのひめみこ)、中蒂姫皇女、長田大娘皇女などとも呼ばれます。
古事記での登場はわずかにセリフ一か所ですが、非常に数奇な運命を持つ姫です。
最初のダンナ・大日下王は、仁徳天皇と、仁徳天皇を超ハイテンションにさせた美女・髪長比売(かみながひめ=カミナガ)の間の子です。
大日下王の同母妹に、つまり、カミナガのもう一人の子どもに若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)がいました。
同母兄妹である木梨軽皇子(きなしのかるのみこ=カルミコ)と軽大郎女(かるのおおいらつめ=カルノ)が禁断の情事に走ったために糾弾した穴穂御子(あなほのみこ)は、彼ら兄妹の父である允恭天皇が崩御すると、即位します。安康天皇です。
安康天皇は実弟(つまり、カルミコやカルノとも同母)の大長谷王(おおはつせのみこ)に、ワカクサカを娶せようと、根臣(ねおみ)を大日下王のもとには派遣しました。
根臣から話を聞いた大日下王は良い縁談と大喜び、その旨を根臣に伝えるとともに、それだけでは誠意が足りないと思い、宝玉がたくさんついた冠を天皇に献上しようとしました。
しかし、その冠に目がくらんだ根臣は、冠をそっと懐に納め、虚偽を安康天皇に報告します。「オレっちの大事な妹・ワカクサカが、同族の輩に組み敷かれてチョメチョメさせられるなんてもってのほかさ、とかほざいておりましたぜ、へっへっへっ」。
これを信じた安康天皇が大日下王を誅し、その妃だったナガタノを奪い、皇后とするわけです。
安康天皇と大日下王はいとこ同士。結婚の儀式として使者を派遣することはあっても、直接言葉を掛け合うことに、身分的にもそれほどの不都合はないと思われ、安康天皇が根臣の讒言を簡単に信じたことには疑問があります。カルミコへの対応から考えて、安康天皇がよほど暗愚だった、とも思えません。
後の雄略天皇もそうですが、この当時、天皇および皇族は身内同士で殺し合っていた、つまり親戚とはいえ気の許せないヤツら、とお互いに思っていた、本件もそのために起こった齟齬、とも考えられますが、安康天皇としては、美女として知られていたナガタノを初めから奪う考えがあったのかもしれません。
さて、ナガタノは安康天皇への輿入れに際して、大日下王との間の子である眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)も連れていきます。父の罪状が讒言とはいえ天皇への反逆であれば、子も許される道理はないのですが、ナガタノの懇願があったのかもしれません。結局、このマヨワを恐れるところから物語は進み、安康天皇は日本史上でも珍しい(確実なのは、120人以上いる天皇の中で二人だけ。安康はそのうちの一人)、暗殺された天皇になってしまいます。
安康天皇とナガタノ、夫婦水入らずでの会話で、ナガタノ初登場、というか唯一の登場。
安康天皇「オマエには何か心配事があるか?」
ナガタノ「陛下にたくさん愛されておりますので、何も心配事はございません」
安康天皇「いつもチョー心配してるんだけど~、オマエの連れ子のマヨワが大きくなって、オレっちがヤツの実父である大日下王を殺したことを知ったら、仇を討とうと思いはしないかな?」
これだけ。。
うーん、天皇に対する社交辞令、というか、この後の展開の前振り、というか。
この会話を実はマヨワが聞いていました。当時七歳。聞いた後、すぐに復讐を誓い、天皇を暗殺してしまいます。すっごい実行力。その後は、大長谷王、つまり後の雄略天皇が、天皇暗殺犯の対処をめぐり、兄弟間での闘争に勝ち残っていく過程が描かれます。
臣下である都夫良意富美の屋敷に逃げ込んだマヨワ。都夫良意富美、雄略天皇の軍に奮戦します。これもおかしなことです。天皇殺害犯の成敗は誰がどう見ても正義ですが、その天皇殺害犯をかくまう臣下がいたというのはよほどのこと、表面には見えないことがこの混乱の背景にはあったのかもしれません。
というのも、都夫良意富美はマヨワを匿うだけではなく、善戦し、雄略天皇からの誘いも断り、もうダメ、というところに来ると、マヨワにお伺いを立てた後、マヨワを殺し、自害します。そこまでマヨワに殉じて、しかもマヨワの古事記での描かれ方が七歳とは思えないしっかり者。禁断の同母妹愛でやはり臣下のもとに逃げ込んだカルミコが、その臣下に簡単にあしらわれているのとは大違いです。
ともかく、これで二度夫を殺され、子供もほとんど同時に殺されたナガタノ。より正確に言えば、一度目の夫との子が二度目の夫を殺し、その子もその罪で時間的にはソッコー殺されたナガタノ。うーん、複雑です。
古事記での展開はそのまま雄略天皇編に行きますので、ナガタノのその後のことはよく分かっていませんが、普通に考えてもショックが大きすぎるでしょう。その分、古事記の中の唯一のセリフは、もう少し意味深だったのではないかと思います。
ということで、本サイトでは、このようにアレンジしてみました。
【関連記事】
・佞臣の讒言を信じて忠臣を殺した安康天皇は、連れ子に仇討されて果てる
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・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・ナガタノ - 復讐鬼マヨワ(7歳)の母は穏やかな姫
・マヨワ - 七歳の天皇暗殺犯 激情かつ冷静な皇子
・雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君
・ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫
履中天皇の皇女。仁徳天皇の皇子・大日下王(おおくさかのみこ)と結婚、一子をもうけますが、ダンナが安康天皇に誅されると、安康天皇に奪われ、皇后とされます。
中蒂姫命(なかしひめ)、中磯皇女(なかしのひめみこ)、中蒂姫皇女、長田大娘皇女などとも呼ばれます。
古事記での登場はわずかにセリフ一か所ですが、非常に数奇な運命を持つ姫です。
最初のダンナ・大日下王は、仁徳天皇と、仁徳天皇を超ハイテンションにさせた美女・髪長比売(かみながひめ=カミナガ)の間の子です。
大日下王の同母妹に、つまり、カミナガのもう一人の子どもに若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)がいました。
同母兄妹である木梨軽皇子(きなしのかるのみこ=カルミコ)と軽大郎女(かるのおおいらつめ=カルノ)が禁断の情事に走ったために糾弾した穴穂御子(あなほのみこ)は、彼ら兄妹の父である允恭天皇が崩御すると、即位します。安康天皇です。
安康天皇は実弟(つまり、カルミコやカルノとも同母)の大長谷王(おおはつせのみこ)に、ワカクサカを娶せようと、根臣(ねおみ)を大日下王のもとには派遣しました。
根臣から話を聞いた大日下王は良い縁談と大喜び、その旨を根臣に伝えるとともに、それだけでは誠意が足りないと思い、宝玉がたくさんついた冠を天皇に献上しようとしました。
しかし、その冠に目がくらんだ根臣は、冠をそっと懐に納め、虚偽を安康天皇に報告します。「オレっちの大事な妹・ワカクサカが、同族の輩に組み敷かれてチョメチョメさせられるなんてもってのほかさ、とかほざいておりましたぜ、へっへっへっ」。
これを信じた安康天皇が大日下王を誅し、その妃だったナガタノを奪い、皇后とするわけです。
安康天皇と大日下王はいとこ同士。結婚の儀式として使者を派遣することはあっても、直接言葉を掛け合うことに、身分的にもそれほどの不都合はないと思われ、安康天皇が根臣の讒言を簡単に信じたことには疑問があります。カルミコへの対応から考えて、安康天皇がよほど暗愚だった、とも思えません。
後の雄略天皇もそうですが、この当時、天皇および皇族は身内同士で殺し合っていた、つまり親戚とはいえ気の許せないヤツら、とお互いに思っていた、本件もそのために起こった齟齬、とも考えられますが、安康天皇としては、美女として知られていたナガタノを初めから奪う考えがあったのかもしれません。
さて、ナガタノは安康天皇への輿入れに際して、大日下王との間の子である眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)も連れていきます。父の罪状が讒言とはいえ天皇への反逆であれば、子も許される道理はないのですが、ナガタノの懇願があったのかもしれません。結局、このマヨワを恐れるところから物語は進み、安康天皇は日本史上でも珍しい(確実なのは、120人以上いる天皇の中で二人だけ。安康はそのうちの一人)、暗殺された天皇になってしまいます。
安康天皇とナガタノ、夫婦水入らずでの会話で、ナガタノ初登場、というか唯一の登場。
安康天皇「オマエには何か心配事があるか?」
ナガタノ「陛下にたくさん愛されておりますので、何も心配事はございません」
安康天皇「いつもチョー心配してるんだけど~、オマエの連れ子のマヨワが大きくなって、オレっちがヤツの実父である大日下王を殺したことを知ったら、仇を討とうと思いはしないかな?」
これだけ。。
うーん、天皇に対する社交辞令、というか、この後の展開の前振り、というか。
この会話を実はマヨワが聞いていました。当時七歳。聞いた後、すぐに復讐を誓い、天皇を暗殺してしまいます。すっごい実行力。その後は、大長谷王、つまり後の雄略天皇が、天皇暗殺犯の対処をめぐり、兄弟間での闘争に勝ち残っていく過程が描かれます。
臣下である都夫良意富美の屋敷に逃げ込んだマヨワ。都夫良意富美、雄略天皇の軍に奮戦します。これもおかしなことです。天皇殺害犯の成敗は誰がどう見ても正義ですが、その天皇殺害犯をかくまう臣下がいたというのはよほどのこと、表面には見えないことがこの混乱の背景にはあったのかもしれません。
というのも、都夫良意富美はマヨワを匿うだけではなく、善戦し、雄略天皇からの誘いも断り、もうダメ、というところに来ると、マヨワにお伺いを立てた後、マヨワを殺し、自害します。そこまでマヨワに殉じて、しかもマヨワの古事記での描かれ方が七歳とは思えないしっかり者。禁断の同母妹愛でやはり臣下のもとに逃げ込んだカルミコが、その臣下に簡単にあしらわれているのとは大違いです。
ともかく、これで二度夫を殺され、子供もほとんど同時に殺されたナガタノ。より正確に言えば、一度目の夫との子が二度目の夫を殺し、その子もその罪で時間的にはソッコー殺されたナガタノ。うーん、複雑です。
古事記での展開はそのまま雄略天皇編に行きますので、ナガタノのその後のことはよく分かっていませんが、普通に考えてもショックが大きすぎるでしょう。その分、古事記の中の唯一のセリフは、もう少し意味深だったのではないかと思います。
ということで、本サイトでは、このようにアレンジしてみました。
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【関連キャラ】
・ナガタノ - 復讐鬼マヨワ(7歳)の母は穏やかな姫
・マヨワ - 七歳の天皇暗殺犯 激情かつ冷静な皇子
・雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君
・ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫
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