古事記を彩る姫たちエントリーNO.20 女鳥王(めどりのみこ=メドリ)
異母兄の仁徳天皇に求愛されたが、その話を持ってきた、別の異母兄の速総別命(はやぶさわけのみこ=ハヤブサ)とデキてしまい結婚、仁徳天皇を振って袖にした挙句、ダンナのハヤブサとともに仁徳天皇に反旗を翻し、討伐されてしまった姫。
以上の登場人物、全員兄妹で、父が同じ応神天皇です。母が全員違います。
・仁徳天皇の母…中日売命(なかつひめのみこと)、応神皇后
・ハヤブサの母…糸井比売(いとひめ) 応神の妃の一人
・メドリの母…矢河枝比売(やかわえひめ=ヤカワエ)、応神の妃の一人
異母兄妹同士の結婚はタブーではなく、古代日本ではむしろ盛んにおこなわれていました。だから、このような三角関係にもなるわけです。
メドリの母ヤカワエの子らは、仁徳天皇にとっても不思議な因縁があります。下記が応神とヤカワエの間の子たちです。
1.宇遅能和紀郎子(うじのわきのいらつこ=和紀郎子)が応神の皇太子
⇒仁徳天皇は応神皇后の息子なのに皇太子になれず、寵姫ヤカワエの息子に皇太子を掻っ攫われてしまいます。結局、応神の次の天皇は仁徳になりましたが、そのために、仁徳による和紀郎子暗殺説は昔から根強く語られています。古事記には和紀郎子と仁徳が皇位を譲り合ったとありますが、まあ、皇太子暗殺が実際あってもおかしくない流れです。
2.八田若郎女(やたのわきいらつめ=ヤタノ)が後の皇后に
⇒仁徳皇后である石之日売命(いわのひめのみこと=イワノ)が家出した原因となった、仁徳天皇の浮気相手。古事記には記載はありませんが、イワノの死後、仁徳の皇后になります。
3.そして、このメドリです。
実姉のヤタノと同様、仁徳天皇好みの美女だったのでしょう。仁徳天皇は異母弟のハヤブサに頼んで、メドリの意向をうかがわせます。メドリは、「実姉のヤタノでさえ、皇后イワノを恐れて満足に可愛がれない仁徳天皇のオンナになんかなれるかっ! あんたのオンナになるっ」とハヤブサとデキてしまいます。
ハヤブサはこの流れを仁徳天皇に報告できないまま、仁徳天皇が直接メドリと邂逅してしまい、求愛の歌を歌いますが、メドリはソッコー拒否ります。とことん仁徳天皇が嫌いになったみたいです。
さらにそれが高じて、寝所の中でチョメチョメしながら「仁徳天皇を殺っちゃって」とハヤブサに囁く歌を歌います。この歌が仁徳天皇に漏れ伝わって、ふたりの謀反が発覚、仁徳天皇は討伐軍を出し、ふたりの逃避行となります。
倉椅山(奈良県桜井市)を登って逃げる際のハヤブサの歌が二つ伝わっています(1 | 2)。
結局、宇陀(奈良県宇陀市)あたりまで逃げたところで討伐軍に捕まり、二人とも殺されます。
討伐軍の将軍・山部大楯連(やまべのおおたてのむらじ)は、メドリが手に巻いていた玉を連ねた腕飾りを奪い取って、それを自分の妻に与えました。それを知った仁徳皇后イワノが、山部大楯連の妻を遠ざけた上で、山部大楯連に死刑を宣告しました。
仁徳天皇がフラれるという(しかも恐妻家すぎて、というのが理由で)少し情けない説話ですが、歌に綾どられた美しいストーリー展開で、古事記のクライマックスの一つであることは間違いなく、日本古代ラブロマンス・オペラそのもので、メドリはそのヒロインとなります。
現在でも宇陀市には、逃避行中にハヤブサがメドリをかくまったと場所として伝えられる「姫隠しの岩」があります。また曽爾村今井には横穴式石室墳で構成される楯岡山古墳群があり、1号墳がハヤブサの墓、3号墳がメドリの墓とする伝承があるようです。
ただし、楯岡山古墳群は年代が合わないという理由で、別人の墓という説が有力のようです。ここより少し離れた覆矢塚(ふやづか)というのが二人の墓で、二人は追手から雨のように降る矢にあたって死んだ、とも伝えられています。
伝承では、この塚の草花を持ちかえった人が、その夜から悪い病気にかかり「髪の毛をふり乱した女」の夢を見たとも言われています。メドリの怨念でしょうか。
・奈良を歩きたくなる さわやかエッセイ - 上方落語家が歩く、平成の伊勢参りの道。宇陀周辺地図も
・楯岡山古墳群 - 奈良の名所・古跡
※画像は、「姫隠しの岩」(出典:上方落語家が歩く、平成の伊勢参りの道)
【関連記事】
・ヨメ恐がりすぎて女に愛想つかれる仁徳天皇 それが反乱の引き金になろうとは…
・ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・メドリ - 仁徳天皇を振った女、反逆して誅される
・ハヤブサ - 天皇が見初めた姫とデキて反逆する皇子
・仁徳天皇 - 古事記中盤の主役はやはり女好きの御仁
・ヤタノ - 女好き仁徳天皇を待ち続ける温厚な姫
・イワノ - 古代日本最強の姫は、史上初のツンデレ?
・ヤカワエ - 日本で初めてスタイルを激賞された美女
・応神天皇 - 自身の登場シーンがあまり多くない天皇
異母兄の仁徳天皇に求愛されたが、その話を持ってきた、別の異母兄の速総別命(はやぶさわけのみこ=ハヤブサ)とデキてしまい結婚、仁徳天皇を振って袖にした挙句、ダンナのハヤブサとともに仁徳天皇に反旗を翻し、討伐されてしまった姫。
以上の登場人物、全員兄妹で、父が同じ応神天皇です。母が全員違います。
・仁徳天皇の母…中日売命(なかつひめのみこと)、応神皇后
・ハヤブサの母…糸井比売(いとひめ) 応神の妃の一人
・メドリの母…矢河枝比売(やかわえひめ=ヤカワエ)、応神の妃の一人
異母兄妹同士の結婚はタブーではなく、古代日本ではむしろ盛んにおこなわれていました。だから、このような三角関係にもなるわけです。
メドリの母ヤカワエの子らは、仁徳天皇にとっても不思議な因縁があります。下記が応神とヤカワエの間の子たちです。
1.宇遅能和紀郎子(うじのわきのいらつこ=和紀郎子)が応神の皇太子
⇒仁徳天皇は応神皇后の息子なのに皇太子になれず、寵姫ヤカワエの息子に皇太子を掻っ攫われてしまいます。結局、応神の次の天皇は仁徳になりましたが、そのために、仁徳による和紀郎子暗殺説は昔から根強く語られています。古事記には和紀郎子と仁徳が皇位を譲り合ったとありますが、まあ、皇太子暗殺が実際あってもおかしくない流れです。
2.八田若郎女(やたのわきいらつめ=ヤタノ)が後の皇后に
⇒仁徳皇后である石之日売命(いわのひめのみこと=イワノ)が家出した原因となった、仁徳天皇の浮気相手。古事記には記載はありませんが、イワノの死後、仁徳の皇后になります。
3.そして、このメドリです。
実姉のヤタノと同様、仁徳天皇好みの美女だったのでしょう。仁徳天皇は異母弟のハヤブサに頼んで、メドリの意向をうかがわせます。メドリは、「実姉のヤタノでさえ、皇后イワノを恐れて満足に可愛がれない仁徳天皇のオンナになんかなれるかっ! あんたのオンナになるっ」とハヤブサとデキてしまいます。
ハヤブサはこの流れを仁徳天皇に報告できないまま、仁徳天皇が直接メドリと邂逅してしまい、求愛の歌を歌いますが、メドリはソッコー拒否ります。とことん仁徳天皇が嫌いになったみたいです。
さらにそれが高じて、寝所の中でチョメチョメしながら「仁徳天皇を殺っちゃって」とハヤブサに囁く歌を歌います。この歌が仁徳天皇に漏れ伝わって、ふたりの謀反が発覚、仁徳天皇は討伐軍を出し、ふたりの逃避行となります。
倉椅山(奈良県桜井市)を登って逃げる際のハヤブサの歌が二つ伝わっています(1 | 2)。
結局、宇陀(奈良県宇陀市)あたりまで逃げたところで討伐軍に捕まり、二人とも殺されます。
討伐軍の将軍・山部大楯連(やまべのおおたてのむらじ)は、メドリが手に巻いていた玉を連ねた腕飾りを奪い取って、それを自分の妻に与えました。それを知った仁徳皇后イワノが、山部大楯連の妻を遠ざけた上で、山部大楯連に死刑を宣告しました。
仁徳天皇がフラれるという(しかも恐妻家すぎて、というのが理由で)少し情けない説話ですが、歌に綾どられた美しいストーリー展開で、古事記のクライマックスの一つであることは間違いなく、日本古代ラブロマンス・オペラそのもので、メドリはそのヒロインとなります。
現在でも宇陀市には、逃避行中にハヤブサがメドリをかくまったと場所として伝えられる「姫隠しの岩」があります。また曽爾村今井には横穴式石室墳で構成される楯岡山古墳群があり、1号墳がハヤブサの墓、3号墳がメドリの墓とする伝承があるようです。
ただし、楯岡山古墳群は年代が合わないという理由で、別人の墓という説が有力のようです。ここより少し離れた覆矢塚(ふやづか)というのが二人の墓で、二人は追手から雨のように降る矢にあたって死んだ、とも伝えられています。
伝承では、この塚の草花を持ちかえった人が、その夜から悪い病気にかかり「髪の毛をふり乱した女」の夢を見たとも言われています。メドリの怨念でしょうか。
・奈良を歩きたくなる さわやかエッセイ - 上方落語家が歩く、平成の伊勢参りの道。宇陀周辺地図も
・楯岡山古墳群 - 奈良の名所・古跡
※画像は、「姫隠しの岩」(出典:上方落語家が歩く、平成の伊勢参りの道)
【関連記事】
・ヨメ恐がりすぎて女に愛想つかれる仁徳天皇 それが反乱の引き金になろうとは…
・ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・メドリ - 仁徳天皇を振った女、反逆して誅される
・ハヤブサ - 天皇が見初めた姫とデキて反逆する皇子
・仁徳天皇 - 古事記中盤の主役はやはり女好きの御仁
・ヤタノ - 女好き仁徳天皇を待ち続ける温厚な姫
・イワノ - 古代日本最強の姫は、史上初のツンデレ?
・ヤカワエ - 日本で初めてスタイルを激賞された美女
・応神天皇 - 自身の登場シーンがあまり多くない天皇
コメント