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古事記を彩る姫たちエントリーNO.08 豊玉比売(とよたまひめ=トヨタマ)

海の神・綿津見神(わたつみのかみ=ワタツミ)の娘。父とともに海の中の宮殿、いわゆる竜宮城に住んでいる姫。

天孫・邇邇芸命(ににぎのみこと=ニニギ)と木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ=サクヤ)の子である火遠理命(ほおりのみこと=山幸彦(やまさちひこ))は、兄・海幸彦(うみさちひこ)にいじめられ、海辺で悩んでいたところ、塩椎神(しおつちのかみ)に「竜宮城に行ってみな~」と言われ、実際に行ってみた。

豊玉比売(とよたまひめ=トヨタマ)縦500px竜宮城に来てみれば~、門の近くに、塩椎神に言われたとおり待っていると、トヨタマの侍女が現れ、ついでトヨタマ本人も登場。トヨタマはイケメン山幸彦に一目惚れ、父に報告。父ワタツミも山幸彦を歓待。トヨタマ、山幸彦とゴールイン。というとんとん拍子。

あまりにも幸福すぎて、竜宮城に来た目的を三年間も忘れた山幸彦。三年過ぎたある日、海幸彦との諍い含む懸案事項を思い出し、思わずため息をつきます。これを見たトヨタマちゃん、心配になって、父ワタツミに相談します。

ワタツミは山幸彦の悩みを聞き、いろいろなひみつ道具や解決策を伝授。陸に戻り、その通りに海幸彦に対すると、山幸彦はあっけなく海幸彦を屈服させることができました。

さて、その後、山幸彦の子供ができたトヨタマちゃんも、山幸彦を追い駆けて陸に行きます。「本当は海の国で生むべきなんだけど、来ちゃった テヘッ」。そして「これから産むから、覗かないでね love」

キタコレ!

火遠理命(ほおりのみこと=山幸彦(やまさちひこ))縦480pxムリムリムリ。山幸彦、やはり覗いてしまいます。そうしたらトヨタマちゃん、ワニの姿に変わっていて、お産の最中。恐れた山幸彦、とん走~。覗かれたことに気付いたトヨタマちゃん、羞恥。

子供を無事産んだトヨタマちゃんは恥ずかしさから子供を置いて、海の国へ帰って行きます。この子供が天津日高日子波限建鵜草葺不合命(あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと=ウガヤフキアエズ)、トヨタマちゃんの妹・玉依姫(たまよりびめ=タマヨリ)が養育することになります。タマヨリちゃんについては、こちらに詳しくあります。

玉依姫(たまよりびめ=タマヨリ)縦480px長じて、タマヨリと結婚したウガヤフキアエズ。二人が設けた子供の中に初代神武天皇が出ます。

んんっ、神武天皇のお祖母ちゃんはワニだった?

もっ、もちろん生物学的なワニではなく、ワニをトーテムとする部族の一員だったんでしょうけど。。山幸彦の竜宮城譚は、天孫の家系と、やはり国つ神系の婚姻・同盟の話なのでしょう。

さて、山幸彦とトヨタマちゃん。離れ離れにはなってしまいましたが、お互い忘れられません。トヨタマちゃんが山幸彦を思って、タマヨリに頼んで届けさせた歌と、山幸彦によるその返歌が古事記には収録されています。愛を確かめ合う良い歌です。

ここまで積極的に男性を愛した姫は、古事記の中ではトヨタマちゃんが最右翼でしょう。しいて言えば、自ら大国主命(おおくにぬしのかみ=オオクニヌシ)と結婚宣言した八上比売(やがみひめ=ヤガミ)がいますが、それは因幡の白兎との因縁話になっています。また女癖の悪いオオクニヌシを支え続けた須勢理毘売命(すせりびめ=スセリ)もいるにはいますが、嫉妬狂のイメージが強く。。やはりトヨタマちゃんの山幸彦に対する純粋無垢な、積極的な行動と愛は秀逸です。

山幸彦とトヨタマの結婚の段において、山幸彦の行動やセリフはほとんどなく、ワタツミ・トヨタマが主導しています。それだけ、ワタツミ・トヨタマ側が山幸彦との関係構築に必死だったか、はたまたそのような演出か。

しかしそれも結局は別れてしまうところに、古代における異部族間での関係の難しさがあるのかもしれません。

800px-Toyotamahime_Shrine_hondenさて、トヨタマちゃん。現在では、西日本を中心に、安産の神様として各所に祀られています。

・豊玉姫神社(鹿児島県南九州市)
・豊玉姫神社(佐賀県嬉野市)
・豊玉姫神社(香川県男木島)
・天石門別豊玉比賣神社(徳島県徳島市)
・和多都美豊玉比賣神社(徳島県徳島市)
・豊玉姫神社(千葉県香取市)

南九州から四国にかけてが目立ちます。海幸彦は隼人(鹿児島県)を象徴しているとされており、山幸彦による海幸彦の屈服はヤマトによる隼人の屈服を描いていると言われています。

豊玉という名前から勾玉の一大産地であった出雲の姫であるとの指摘があるようですが、山幸彦の海幸彦討伐の過程で、古事記を信じるのであれば、圧倒的な加勢をしたワタツミ・トヨタマの部族は、九州―四国の海を支配する部族だったのかもしれませんね。

水車の動力によるからくり人形(水車からくり)が上演されることでも有名な豊玉姫神社(鹿児島県南九州市)。その宮司は、トヨタマちゃんの従者の子孫という言い伝えがあると言います。

本当であれば、神武天皇よりも先行している家系、ということになりそうです。

※画像は、豊玉姫神社(鹿児島県南九州市)の本殿(出典:Wikipedia)

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【関連キャラ】
トヨタマ - 竜宮城の姫、神武の祖母はワニだった
山幸彦 - 神武の祖父は竜宮城に行く、浦島太郎?
タマヨリ - 神武の母 祖母はワニだったが、母は?
ワタツミ - 竜宮城の王で山幸彦のドラえもん的存在