古事記を彩る姫たちエントリーNO.05 下照比売(したてるひめ=シタテル)
シタテルちゃんは、大国主命(おおくにぬしのかみ=オオクニヌシ)と多紀理毘売命(たきりびめ=タキリ)との間の子です。タキリは宗像三女神の一柱で、アマテラスとスサノヲの誓約で誕生した女神であり、スサノヲの娘にあたります。オオクニヌシ正妻の須勢理毘売命(すせりびめ=スセリ)とは(異母?)姉妹ということになります。
オオクニヌシ・タキリの娘シタテルちゃんは、国譲りに登場する姫です。
国譲りは、アマテラスが「葦原の水穂の国(あしはらのみずほのくに=日本の国)、1500年ほど栄えていい感じじゃ~ん。今後、あたしの息子が治める国にすっから」で始まりました。
しかし、肝心のその息子自身が、「えっ~、あそこ行くの? ちょっと騒がしくね? 勘弁してほしいな~、もう」と尻込みしたため、アマテラスと高天原は、まず葦原の中つ国を安寧にすることが求められました。
そこで高天原から葦原の中つ国に派遣されたのは、アマテラスのもう一人の息子である天之菩卑能命(あめのほひ)。しかしこの神、葦原の中つ国を支配するオオクニヌシの説得に失敗、任務を放棄して、葦原の中つ国に住みついてしまいます。
次に高天原が送り込んだのが、天若日子(あめのわかひこ=アメノワカヒコ)。しかししかしこの神も結果的には任務を放棄してしまいます。人選上に問題あったんじゃねーの、という感じですが。。
アメノワカヒコが任務を放棄した理由こそが、シタテルちゃんの存在です。葦原の中つ国に来て、一目見たオオクニヌシ娘シタテルちゃんをアメノワカヒコがゾッコンになり、即結婚。しかも、「この国、気に入ったからオレのものね キリッ」と言い出す始末。
まあ、オオクニヌシ一家に婿入りしたわけだから、オオクニヌシの後継者になった、と言えなくもなく、この発言が飛び出したのかもしれませんが。
アメノワカヒコとの結婚に関して、シタテルちゃんはセリフも、歌も残していませんが、後述するように、シタテルちゃんもアメノワカヒコを非常に愛していたようです。
さて、やはり戻ってこないし、報告もしてこないアメノワカヒコについて、高天原も業を煮やします。ナキメというキジを派遣して、アメノワカヒコの真意を問いただそうとします。
アメノワカヒコはやって来たこのキジを即射殺、放った矢はキジを貫通して、高天原まで届きます。アメノワカヒコの矢が(キジの血のり付きで)戻って来たのを訝しんだ高天原は、その矢に「アメノワカヒコが裏切っていれば、突き刺してコ・ロ・セ」と呪文を込めて送り返します。
裏切っていたので、アメノワカヒコはその送り返された矢が突き刺さって、即死。
さて、夫を暗殺されたシタテルちゃん。悲嘆にくれます。その泣き叫ぶ声が高天原まで聞こえてきて、高天原にいたアメノワカヒコの親族もやはり嘆き悲しみ、美濃の国(みののくに=現在の岐阜県南部)で葬式をあげることになりました。
アメノワカヒコとも親友で、シタテルちゃんの兄貴アヂスキタカヒコネもこの葬式に参列。しかし、この兄貴がアメノワカヒコにそっくりだったために、高天原の親族が「おおっ、死んでないじゃん」と兄貴に寄ってたかってきました。それにキレた兄貴。式場をぼろぼろにして、飛んで去っていきました。
その際のシタテルちゃんが詠んだ歌が、夷振(ひなぶり)と呼ばれ、大歌所(おおうたどころ)に伝えられた宮中を代表する楽舞として発展していくことになります。そのため、シタテルちゃんはスサノヲと同様、和歌の祖ともされています。
さて、その歌。素直に読めば、兄貴の名を明かし、兄貴が去っていく場面を描写したもの。兄貴の容姿を褒め称えはしますが、夫の死や葬式、それを嘆き悲しむ様子には読めません。夫アメノワカヒコとそっくりだった兄貴の容姿を褒め、去っていくことを活写することで、夫への愛を込めたのかもしれません。あるいはそのまま、シタテルちゃんの兄に対する愛の表現?
そんなシタテルちゃん、現在では、下記などで祀られています。
・大穴持御子玉江神社(出雲大社 荒垣外摂末社)
・比売許曽神社(大阪市東成区東小橋)
・売豆紀神社(島根県松江市)
・売布神社(兵庫県宝塚市)
・倭文神社(鳥取県湯梨浜町)
倭文神社は現在、建葉槌命が主祭神となっていますが、社伝にはシタテルヒメに関するものが多く、大正時代まではシタテルヒメが主祭神であると考えられていたようです。
さらに、倭文神社内の塚がシタテルヒメのお墓ではないか、と言われてきました。神話時代の登場人物、しかも姫の墓の実在が考えられていたとは、ロマンがありますね。ただし、実際に発掘したところ、シタテルちゃんのお墓ではなく、経塚であることが判明したとのこと。
シタテルちゃんの子どもに関する記録はないのですが、女神からの連想から、倭文神社では安産の神様としても崇められています。
また、アマテラス(天照)とシタテル(下照)という名前の共通項から、天上の姫と地上の姫という位置づけがされているのではないか、という説があります。
それとも関連して、数多い邪馬台国の卑弥呼の記紀神話におけるモデルの一人がシタテルちゃんではないか、とも言われています。
そう考えていくと、古事記では登場回数も多くなく、歌が一つ残っているだけですが、政治的に重要な位置づけの姫だった可能性がありそうです。
※画像は 倭文神社拝殿。(出典:Wikipedia)
【関連記事】
・アマテラス「今後、あたしの息子が治める国にすっから」で始まった国譲り
・夫を暗殺されたオオクニヌシ娘の悲嘆、悲しい葬式のはずがハチャメチャに
・女性と『古事記』 - 幸運引き寄せ、願い叶え、美しく、心身浄化
・ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・シタテル - オオクニヌシ娘で和歌の祖という姫
・アメノワカヒコ - シタテルに一目惚れ、高天原を裏切る
・オオクニヌシ - 国つ神のドンは破天荒な女好き
シタテルちゃんは、大国主命(おおくにぬしのかみ=オオクニヌシ)と多紀理毘売命(たきりびめ=タキリ)との間の子です。タキリは宗像三女神の一柱で、アマテラスとスサノヲの誓約で誕生した女神であり、スサノヲの娘にあたります。オオクニヌシ正妻の須勢理毘売命(すせりびめ=スセリ)とは(異母?)姉妹ということになります。
オオクニヌシ・タキリの娘シタテルちゃんは、国譲りに登場する姫です。
国譲りは、アマテラスが「葦原の水穂の国(あしはらのみずほのくに=日本の国)、1500年ほど栄えていい感じじゃ~ん。今後、あたしの息子が治める国にすっから」で始まりました。
しかし、肝心のその息子自身が、「えっ~、あそこ行くの? ちょっと騒がしくね? 勘弁してほしいな~、もう」と尻込みしたため、アマテラスと高天原は、まず葦原の中つ国を安寧にすることが求められました。
そこで高天原から葦原の中つ国に派遣されたのは、アマテラスのもう一人の息子である天之菩卑能命(あめのほひ)。しかしこの神、葦原の中つ国を支配するオオクニヌシの説得に失敗、任務を放棄して、葦原の中つ国に住みついてしまいます。
次に高天原が送り込んだのが、天若日子(あめのわかひこ=アメノワカヒコ)。しかししかしこの神も結果的には任務を放棄してしまいます。人選上に問題あったんじゃねーの、という感じですが。。
アメノワカヒコが任務を放棄した理由こそが、シタテルちゃんの存在です。葦原の中つ国に来て、一目見たオオクニヌシ娘シタテルちゃんをアメノワカヒコがゾッコンになり、即結婚。しかも、「この国、気に入ったからオレのものね キリッ」と言い出す始末。
まあ、オオクニヌシ一家に婿入りしたわけだから、オオクニヌシの後継者になった、と言えなくもなく、この発言が飛び出したのかもしれませんが。
アメノワカヒコとの結婚に関して、シタテルちゃんはセリフも、歌も残していませんが、後述するように、シタテルちゃんもアメノワカヒコを非常に愛していたようです。
さて、やはり戻ってこないし、報告もしてこないアメノワカヒコについて、高天原も業を煮やします。ナキメというキジを派遣して、アメノワカヒコの真意を問いただそうとします。
アメノワカヒコはやって来たこのキジを即射殺、放った矢はキジを貫通して、高天原まで届きます。アメノワカヒコの矢が(キジの血のり付きで)戻って来たのを訝しんだ高天原は、その矢に「アメノワカヒコが裏切っていれば、突き刺してコ・ロ・セ」と呪文を込めて送り返します。
裏切っていたので、アメノワカヒコはその送り返された矢が突き刺さって、即死。
さて、夫を暗殺されたシタテルちゃん。悲嘆にくれます。その泣き叫ぶ声が高天原まで聞こえてきて、高天原にいたアメノワカヒコの親族もやはり嘆き悲しみ、美濃の国(みののくに=現在の岐阜県南部)で葬式をあげることになりました。
アメノワカヒコとも親友で、シタテルちゃんの兄貴アヂスキタカヒコネもこの葬式に参列。しかし、この兄貴がアメノワカヒコにそっくりだったために、高天原の親族が「おおっ、死んでないじゃん」と兄貴に寄ってたかってきました。それにキレた兄貴。式場をぼろぼろにして、飛んで去っていきました。
その際のシタテルちゃんが詠んだ歌が、夷振(ひなぶり)と呼ばれ、大歌所(おおうたどころ)に伝えられた宮中を代表する楽舞として発展していくことになります。そのため、シタテルちゃんはスサノヲと同様、和歌の祖ともされています。
さて、その歌。素直に読めば、兄貴の名を明かし、兄貴が去っていく場面を描写したもの。兄貴の容姿を褒め称えはしますが、夫の死や葬式、それを嘆き悲しむ様子には読めません。夫アメノワカヒコとそっくりだった兄貴の容姿を褒め、去っていくことを活写することで、夫への愛を込めたのかもしれません。あるいはそのまま、シタテルちゃんの兄に対する愛の表現?
そんなシタテルちゃん、現在では、下記などで祀られています。
・大穴持御子玉江神社(出雲大社 荒垣外摂末社)
・比売許曽神社(大阪市東成区東小橋)
・売豆紀神社(島根県松江市)
・売布神社(兵庫県宝塚市)
・倭文神社(鳥取県湯梨浜町)
倭文神社は現在、建葉槌命が主祭神となっていますが、社伝にはシタテルヒメに関するものが多く、大正時代まではシタテルヒメが主祭神であると考えられていたようです。
さらに、倭文神社内の塚がシタテルヒメのお墓ではないか、と言われてきました。神話時代の登場人物、しかも姫の墓の実在が考えられていたとは、ロマンがありますね。ただし、実際に発掘したところ、シタテルちゃんのお墓ではなく、経塚であることが判明したとのこと。
シタテルちゃんの子どもに関する記録はないのですが、女神からの連想から、倭文神社では安産の神様としても崇められています。
また、アマテラス(天照)とシタテル(下照)という名前の共通項から、天上の姫と地上の姫という位置づけがされているのではないか、という説があります。
それとも関連して、数多い邪馬台国の卑弥呼の記紀神話におけるモデルの一人がシタテルちゃんではないか、とも言われています。
そう考えていくと、古事記では登場回数も多くなく、歌が一つ残っているだけですが、政治的に重要な位置づけの姫だった可能性がありそうです。
※画像は 倭文神社拝殿。(出典:Wikipedia)
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・夫を暗殺されたオオクニヌシ娘の悲嘆、悲しい葬式のはずがハチャメチャに
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・日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次
【関連キャラ】
・シタテル - オオクニヌシ娘で和歌の祖という姫
・アメノワカヒコ - シタテルに一目惚れ、高天原を裏切る
・オオクニヌシ - 国つ神のドンは破天荒な女好き
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