眉輪王17.安康天皇
17-1.大日下王と根臣


同母妹・軽大郎女(かるのおおいらつめ)にLOVEすぎた木梨之軽王(きなしのかるのみこ=軽王)。この皇太子だった軽王を同母妹との密通により追放した穴穂命(あなほのみこと)が即位して、安康天皇となります。

安康天皇は、同母弟である大長谷命(おおはつせのみこと)のために、根臣(ねおみ)をいとこである大日下王(おおくさかのみこ=オオクサカ)のところに遣わして、「お前の妹の若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)を大長谷王と結婚させたいから、献上よろ」と伝えました。

これを聞いて、オオクサカは大喜び。「そのような思し召しもあろうかと、妹は外に出すこともなく、大切に育ててきた。すぐに献上しま」。言葉だけでは足りないと考え、宝玉がたくさんついた冠を根臣に持たせて返しました。

若日下王(わかくさかのみこ=ワカクサカ)縦480pxしかし、冠に目がくらんだのか、根臣は宮中に戻るとオオクサカを讒言します。「オレっちの大事な妹・ワカクサカが、同族の輩に組み敷かれてチョメチョメさせられるなんてもってのほかさ、とかほざいておりましたぜ、へっへっへっ」

それを聞いて安康天皇は激怒。オオクサカをソッコー殺し、その正妻である長田大郎女(ながたのおおいらつめ=ナガタノ)をさらって自分の皇后にしてしまいました。弟の嫁取りの話が、いきなり自分の女探しになってしまったとさ。

あるいは安康天皇は、前々からナガタノに目をつけていて、何かあればゲットしてやろう、と考えていたかもしれません。

長田大郎女(ながたのおおいらつめ=ナガタノ)縦480pxそれからしばらく経ったある日のこと、安康天皇は、皇后となったナガタノちゃんに、「オマエには何か心配事があるか?」と聞いたところ、皇后は「陛下にたくさん愛されておりますので、何も心配ございません」と答えました。

ところで、オオクサカとナガタノちゃんの間には眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)という七歳の御子がいました。その時ちょうど、御殿の下で遊んでいました。安康天皇はその子が御殿で遊んでいるとも知らずに皇后に話しました。

安康天皇「いつもいつもチョー心配してるんだけど~、オマエの子のマヨワが大きくなって、オレっちがヤツの父親であるオオクサカを殺したことを知ったら、仇を討とうと思いはしないかな」

眉輪王(まよわのみこ=マヨワ)縦480px御殿の下で遊んでいたマヨワはそれを聞いて、すぐに行動に移します。安康天皇が寝ているところを狙って、その傍らに置いてあった剣で、天皇の首を斬り、臣下の都夫良意富美(つぶらおほみ=ツブラオホミ)の家に逃げ込みました。七歳の子が仇討、暗殺とかって、コエ~

そこで、天皇の弟・大長谷命が激怒。すぐにもう一人の兄である黒日子王(くろひこのみこ=クロヒコ)のところに行き曰く。

大長谷命「あのガキ、殺っちゃったよ。どっする?」
クロヒコ「へらへらへら、どうでもいいんじゃね?」
大長谷命「あんた、天皇であり、兄である人が殺されて、そんな態度ねえんじゃね?」

と言うと、大長谷命はクロヒコの襟首をつかんで、家の外に引きずり出し、剣を抜いて、ぶっ殺してしまいました。

大長谷命、今度はもう一人の兄である白日子王(しろひこのみこ=シロヒコ)のところへ行って、同じような問答をしました。

シロヒコも煮え切らない態度をとったので、やはり襟首つかんで、家の外に引きずり出し、今度は穴掘って生き埋めにしようとしましたが、その途中でシロヒコは両方の目が飛び出して死んでしまいました。どんなシチュエーション?

雄略天皇縦480pxそうして大長谷命は軍を起こして、マヨワが匿われているツブラオホミの邸を包囲、すぐに攻撃を開始しました。その射る矢は、葦の穂が盛んに散るかのよう、と言われたほど、容赦なく、激烈に攻めたようです。

その時、大長谷命はふと思い出します。ツブラオホミの邸の中に向かって大声で曰く。

大長谷命「そういやさ、この間オレにくれるって言った女、そこにいるの?」
ツブラオホミ「訶良比売(からひめ)ですね、いますよ~」
大長谷命「くれ…(その後、ぶっつっぶしてやっからよ)」
ツブラオホミ「いいですけど、マヨワくんがいるからね~。臣下が天皇の宮殿に隠れたというのは聞いたことあっけど、皇子が臣下のところに隠れたとは聞いたことがなくてね~」
大長谷命「だから?…(とりあえず、女だけ差し出しやがれっつーの)」
ツブラオホミ「賤しい身分のあっしが、勝つ見込みはないんですがね、あっしを頼りなさって賤しい家にお入りなすった皇子を、死んでも見捨てるわけにはいかねえでげやす」
大長谷命「……」

そう言って、ツブラオホミは再び武器を持ち、戦い始めました。

しかし劣勢は挽回できず、力尽き、矢が尽きました。

ツブラオホミ「皇子様、あっしは体中あっちこっち負傷して、矢もなくなっちまいました。もう戦えねえでげやす。どうなさいますか?」
マヨワ「それなら、もうどうすることもできまい。オレを殺しちゃいな」

七歳の子とは思えない引き際の良さ。そうしてツブラオホミはマヨワを剣で刺し殺し、自分の首も切って死にました。

そんな中でも大長谷命はカラヒメもゲットしたようです。大長谷命が即位して、雄略天皇です。

※画像は、「眉輪王」Google画像検索結果のキャプチャー

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【関連キャラ】
安康天皇 - 近親相姦を糾弾して皇位に就くも暗殺される
オオクサカ - 日本史上初の讒言による冤罪で処刑される
ワカクサカ - 暴君・雄略を馭するほどのほっこり姫
ナガタノ - 復讐鬼マヨワ(7歳)の母は穏やかな姫
マヨワ - 七歳の天皇暗殺犯 激情かつ冷静な皇子
雄略天皇 - 古事記後半の主役は、傍若無人な暴君 

【古事記の神・人辞典】
安康天皇
雄略天皇(大長谷命)
ワカクサカ
オオクサカ
根臣

ナガタノ
マヨワ

クロヒコ
シロヒコ

ツブラオホミ
カラヒメ

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