石之日売命14.仁徳天皇
14-4.石之日売


仁徳天皇が皇后・石之日売命(いわのひめのみこと=イワノヒメ)不在中に行った浮気が皇后にばれて、皇后はおかんむり、宮には戻らず、山城国(現 京都府)の筒木にある百済系渡来人・奴理能美(ぬりのみ)の家に身を寄せます。

和邇臣口子(わにのおみくちこ)が奴理能美の屋敷で、仁徳天皇の(詫びの)歌を皇后に伝えようとした時、ひどく雨が降っていましたが、何とか皇后のお許しを得ようと、雨に濡れたまま、ひたすら皇后のご機嫌をうかがいました。

口子が御殿の前の戸で待ち伏せしていると、皇后は後ろの戸から出るようにし、後ろの戸で待ち伏せていると、前の戸から出るようにし、浮気をした仁徳天皇を許せない皇后の姿がそこにありました。

しかし口子は雨でびしょびしょになるのもかまわず、地べたを這いずり回り、何とか皇后のお許しを得ようと奮闘します。

見かねた皇后の侍女・口日売(くちひめ)は歌を歌います。

山城の筒木の宮で申し上げたいことがございます~
私の兄が、涙ぐましい努力をしております~

仁徳天皇縦480pxこの歌を聞いた皇后が口日売に理由を尋ねると、「あの口子は私の兄でございます」と打ち明けます。

こうして皇后も何とか怒りを解き、滞在していた家の主、奴理能美(ぬりのみ)も含めて相談して、口子は天皇に曰く。

口子「皇后がここにいらっしゃるのは奴理能美が飼っている珍しい虫を見たいがためです。他意はございません」
仁徳天皇「その通りだろう。ワシもその珍しい虫が見てみたい」

と言って、難波の宮を出て、山城の筒木に向かい、奴理能美のうちに入りました。その時歌われた歌は。

山城の女が、木の鍬で栽培した大根~、
その大根のように、大変きれいに、お前が言ったから~
大勢のものを連れて、遠くからやって来てやったよ~

今では大根はあまりいい意味の形容にならない場合が多いですが、当時はその白さで、褒め言葉として使われていたことが分かります。

一方で、天皇は騒動の原因となった浮気相手・八田若郎女(やたのわきいらつめ=ヤタノ)も愛おしく思い、歌を送ります。

八田に立っている一本菅は、子どもがないので、
一人で立っていては、あれ荒んでしまうだろう~
ああ、惜しいことだ。ああ、菅原よ。
言葉の上では菅原と言っているが、菅のように清々しい女~
オマエのことだぜ~

全然懲りていない。。ある意味では、これぞ漢。

ヤタノは答えて歌いました。

八田の一本菅は、一人でおりましても~
あなたさえ、それでよいとおっしゃったなあ~
いつまでも一人でおりましょう~

何とけなげな。吉備の黒日売と言い、側室には大変恵まれた仁徳天皇。古事記には記載されていませんが、このヤタノが、イワノ亡き後の仁徳皇后になります。

※画像は、「石之日売命」Google画像検索結果のキャプチャー

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【関連キャラ】
仁徳天皇 - 古事記中盤の主役はやはり女好きの御仁
イワノ - 古代日本最強の姫は、史上初のツンデレ?
ヤタノ - 女好き仁徳天皇を待ち続ける温厚な姫

【古事記の神・人辞典】
仁徳天皇
イワノヒメ
ヤタノ

奴理能美
クチコ
クチヒメ

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