吉備の黒日売14.仁徳天皇
14-2.吉備の黒日売


仁徳天皇の皇后である石之日売命(いわのひめのみこと=イワノ)は大変嫉妬深い方でした。そのため、仁徳天皇が気に入って側に仕えさせていた女性も、おいそれと天皇には近づけないほどで、この皇后、事あるごとに地団駄踏んで嫉妬していました。

ある時、仁徳天皇は吉備国(現 岡山県)の海部直(あまべのあたい)の娘の黒日売(くろひめ=クロヒメ)という女性の美しさを聞き、召し上げました。しかし、あまりにも皇后が恐ろしくて、黒日売はすぐに故郷の吉備に戻ってしまいました。

仁徳天皇は御殿の高台に立って、クロヒメの乗った船が今にも船出しようと浮かんでいるのを見て、歌います。

沖の方に小さな船が並んで行くよ。
可愛いワシの恋人は、
故郷へ下って行っちゃうよ~

仁徳天皇縦480pxこの歌を聞いた皇后イワノは怒り心頭、さっそく人を港に遣わして、クロヒメを船から引きづり出し、「歩いてお行きっ」と故郷に追いやりました。

しかしクロヒメを忘れられない仁徳天皇は、「そうだ、淡路島へ行こう」と言って、旅に出ます。カムフラージュですね。最終目的地はもちろん吉備。

実際、淡路島に行って、はるか彼方を見て、歌います。

アリバイ作り?

難波の崎から船を出して、
わが国見れば~、
アハシマ、オノゴロ島
ビンロウの木が生えている島が見える~
一つポツンと離れた島も見える~

そして、その島々を伝わって、吉備に行きました。クロヒメは天皇を歓迎します。天皇の好物のお吸い物を差し上げようと、クロヒメが畑の青菜を摘んでいると、天皇が歌います。

山の畑に蒔いた青菜でも、
吉備の恋人と一緒に摘めば、
楽しいな~

仁徳天皇がいよいよ難波に帰る時、クロヒメが歌います。

大和の方へ西風が吹いて、
雲が離れていくように~
あなたは今、
私のもとを去っていく~
でも、遠く離れていても、
あなたのことを忘れられない~

また歌います。

大和へ行ってしまわれるのは、
誰の夫なのでしょう?
人目に着かない沼のように、
こっそり心を通わせて、
大和に行くのは、
いったい誰の夫でしょう?

クロヒメの純粋な名残惜しさが伝わってきます。

※画像は、「吉備の黒日売」Google画像検索結果のキャプチャー。

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仁徳天皇 - 古事記中盤の主役はやはり女好きの御仁
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【古事記の神・人辞典】
クロヒメ
仁徳天皇
イワノヒメ

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