沙本毘売命10.垂仁天皇
10-1.サオビコの反逆


垂仁天皇が沙本毘売命(さおびめ=サオビメ)を皇后にしようとした時、その同母兄の沙本毘古王(さおびこのみこ=サオビコ)が妹に問いました。

サオビコ「お前は、夫の天皇と兄の私、どちらが好きだ?」
サオビメ「兄さんの方が好きです」
サオビコ「じゃあ、二人で天下を治めようぜ。この小刀で寝ている隙をついて、天皇を刺しちゃって」

沙本毘売命(さおびめ=サオビメ)縦480px垂仁天皇はそんなことともつゆ知らず、皇后のおひざを枕にして、ぐっすりお休みになっていました。皇后サオビメは小刀を取り出して、天皇を刺そうとしましたが、愛しい思いが募って、とても殺せませんでした。

皇后の涙が天皇の顔に溢れ落ち、垂仁天皇はびっくりして目を覚ますと、皇后に問いました。

垂仁天皇
「妙な夢を見たよ。激しい雨が降ってきて、突然オレの顔を濡らした。それと、小さな蛇が、オレの首にまとわりついてきた。どんな意味?」
サオビメ「兄のサオビコが、“夫の天皇と兄の私、どちらが好きだ?”と面と向かって問うので思わず“兄さんの方が好きです”と答えたのですが、“じゃあ、天皇殺っちゃって”と言って、この小刀を預かりました…」
垂仁天皇「……」
サオビメ「三度小刀を振り下ろして刺そうと思いましたが、愛しさがこみ上げて刺すことができず、涙が溢れて来て、あなた様のお顔を濡らしたのです。あなた様の夢はその表れでしょう」
垂仁天皇縦480px垂仁天皇「……チョーヤバかったじゃん……」

と言って、サオビコを討つため、軍を起こしました。対するサオビコも防御を固めて居城に立て籠もります。

その時、サオビメも兄を憐れんで、御所を抜け出し、兄のもとに行きました。

しかし、この時、ちょうどサオビメは妊娠していました。垂仁天皇は裏切られはしましたが、長い間寵愛し、しかも自分の子どもまでできたサオビメを哀れに思い、サオビコの居城の包囲をわざとゆっくり行い、サオビメが兄の居城に入りやすいようにしてやりました。

そして間もなくサオビメは男の子を出産したのです。サオビメは天皇側の使者に対して曰く。

沙本毘古王(さおびこのみこ=サオビコ)縦480pxサオビメ「この御子を天皇の御子と思いになったら、引き取ってもらい育ててあげてくれませんか」(そうじゃない可能性もあるの? 兄との子っということも?)
垂仁天皇「サオビコはチョームカつくけど、妻の皇后のことは愛しいと思っている」

こうして御子を引き取ることにしたのですが、妻LOVEの垂仁天皇、その際にサオビメも一緒に取り戻しちゃおうと考え、兵士の中から、力が強く、敏捷なものを選んで、「御子と一緒にその母も連れてきちゃいな」と命じました。

ところがサオビメも垂仁天皇の御心を読んでおり、その髪の毛をすっかり切り落とし、その切った髪の毛で頭を覆いました。また、玉をつないだ紐を腐らせてそれを三重に手に巻き、酒で着物を腐らせて、それを悪いところがないもののように見せかけ巻いた。

こうして、サオビメは御子を抱き、サオビコの居城の外に出ました。

垂仁天皇から選ばれた兵士たちは、御子を受け取ると、すぐに母親の方も捕まえようとしました。しかし、その髪を握ると、ボロボロ落ち、手を握ると、玉の紐が切れ、着物を握ると、すぐに破れてしまいました。とうとう、母親の方は捕まえられませんでした。兵士たちは帰還して垂仁天皇に曰く。

兵士たち「髪はボロボロ、手の玉も切れ、着物もすぐに破れてしまい、母親の捕獲失敗 テヘッ。御子しか連れて帰れませんでした キリッ」

垂仁天皇は悔い、恨んで、玉を作った人々を憎み、その土地を奪いました。そのため、「地得ぬ玉作(ところえぬたまつくり)」という諺が生まれました。

しょうがないので、子育てに励むことになった垂仁天皇。しかし何もわかりません。なので、皇后サオビメに一々聞くことになりました。手紙のやり取りなどでしょうか?

垂仁天皇「普通さ、母親の名前を付けるよね。この子は何と名づけようかな?」
サオビメ「この子は城が火に焼かれている時に、炎の中で生まれた(火中出産)ので、本牟智和気王(ほむちわけのみこ=ホムチワケ)がよいでしょう」
垂仁天皇「どのように育てればいかな?」
サオビメ「乳母をつけ、大湯坐(おおゆえ)、若湯坐(わかゆえ)の役を定めるとよいでしょう」
垂仁天皇「今度からお前の代わりにわしが添い寝する女は誰がいい?」
サオビメ「……(そんなこと、妻に聞くんじゃねーよ)……丹波国(現 京都府)の比古多多須美智能宇斯王(ひこたたすみちのうしのみこ)のところに、兄比売(えひめ)・弟比売(おとひめ)という二人の娘がいます。忠実な公民ですので、お使いになるとよいでしょう」

サオビメの亡き後の添い寝相手も妻サオビメに指名してもらい、こうして、垂仁天皇は心置きなくサオビコを討伐し、それと同時に、サオビメも兄と運命を共にすることになりました。

※画像は、「沙本毘売命」Google画像検索結果のキャプチャー。

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【関連キャラ】
垂仁天皇 - 皇后をNTRされ、救われない姫を誕生させる
サオ - 垂仁皇后、義兄にNTRされて激怒する天皇
サオビコ - 妹に天皇暗殺を教唆、兄妹愛に殉ずる
ホムチワケ - 父は誰?しゃべらない皇子のイミフ顛末

【古事記の神・人辞典】
垂仁天皇
サオビメ
サオビコ
ホムチワケ

ヒバスヒメ
イニシキイリビコ | 景行天皇 | オオナカツヒコ | ヤマトヒメ | ワカキニイリヒコ
ヌバタニイリヒメ
ヌテシワケ | イカタラシヒコ
アザミニイリビメ
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カグヤヒメ
アナベノミコ
カリハタトベ
オオチワケ | イカタラシヒコ | イトシワケ
カニハタトベ
イワツクワケ | イワツクビメ

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