吉野の樽丸製作技術(よしののたるまるせいさくぎじゅつ)
種別1:民俗技術
種別2:生産・生業
公開日:-
指定日:2008.03.13(平成20.03.13)
都道府県:奈良県
所在地:吉野地方

吉野の樽丸製作技術は、主に兵庫県の灘や伊丹の酒造りで使用する酒樽の側板にあたるクレ(榑)を、材料となる吉野杉の造林地で大量に製作し、一定量を竹の輪に詰め込むまでの技術である。樽丸とは、一定量のクレを竹の輪に詰め込んだものをいう。

樽丸の材料となる吉野杉は、人工造林を基軸とする吉野林業で生産されてきた。吉野林業は、畿内の城郭や寺社などの建築材を供給する目的で中世末に始まったといわれるが、江戸時代に入ると、灘や伊丹といった日本酒の醸造地の隆盛に対応して、樽丸材の供給も行うようになった。

それは吉野杉が、節が少なく、芯が樹木の中心にあり、きめ細かい年輪が同心円状に刻まれているなど優れた形態的特徴を備えていたのに加え、ほのかな香りが酒に移ることで酒の旨みが増し、また酒が腐りにくくなるとされたためであった。

吉野での樽丸製作は、享保年間(1716年-1736年)に和泉国の商人が安芸国の職人を連れて、今日の吉野郡黒滝村鳥住に来住し、吉野杉を利用して樽丸を製作したのが始まりといわれている。

その後、鳥住の人々がこの技術を習得して今日の吉野郡川上村高原に伝えたのを皮切りに漸次周辺地域にも伝わり、吉野郡一帯で樽丸が製作されるようになったという。なかでも黒滝村と川上村の樽丸は、質量ともに最も優れているといわれてきた。

樽丸の製作は、明治から昭和初期にかけて最盛期を迎えるが、この時期には、樽丸に適する用材を生産することが吉野林業の目標とされ、吉野林業を「樽丸林業」、植林された杉山を「伊丹山」、樽丸を「伊丹」、樽丸師あるいは丸師などといわれる樽丸を製作する職人を「伊丹職」と呼ぶことすらあった。

また、樽丸師がクニイキ(国行)と称して吉野郡のみならず全国各地の杉山で活動を展開したこともあり、明治以降、秋田をはじめとした他地域の杉の植林地でも樽丸の製作が行われるようになり、酒樽のみならず醤油樽用などの樽丸も製作された。

この技術は、木材を切る、割る、削るという基本的な木材加工技術であり、明治以降、全国各地の杉の植林地で行われるようになる樽丸製作に影響を与えるとともに、吉野郡における割箸の製作技術も派生させた。

また、ヘギボウチョウやハラアテ、ウチゼン、ソトゼンといった独特の用具を使うことで、きめ細かい年輪と適度な香りをもつ吉野杉の特性を最大限に生かした技術でもあり、我が国の林産加工技術を考える上で重要である。

樽丸を製作する用具は、平成19年(2007年)3月7日に「吉野林業用具と林産加工用具」として重要有形民俗文化財に指定されている。

保護団体名:吉野の樽丸製作技術保存会
重要無形民俗文化財「吉野の樽丸製作技術」 - 我が国の林産加工技術上で重要な技術
【関連記事】
ものづくり大国ニッポンの原風景 - 国の重要無形民俗文化財に指定された全国の民俗技術
奈良県の重要無形民俗文化財 - 都道府県別に整理