天服織女(あまのふくおりおんな)

機織女(はたおりめ)のこと。これだけでは一般名詞であるが、日本書紀には同じ逸話で、同じ役割を果たす女性の神名を掲げているので、それを代用する。

稚日女尊(わかひるめのみこと)。古事記ではこの神名は出てこないが、日本書紀に現れるこの神名とその役割が、『古事記』における天服織女(あまのふくおりおんな)と同一のことから、同一神と考えられる。

スサノヲが高天原にやって来て、アマテラスの誤解を解き(アマテラスとスサノヲの誓約)、そのために調子こいて高天原で暴れ回り、八百万の神々から苦情が殺到。姉アマテラスは、弟スサノヲをかばい続けて好きなようにやらせることに。

ある日、アマテラスは清浄な機織場にて、神の御召し物を織らせていた時、スサノヲはその機織場の屋根に穴をあけて、皮を剥いだ生き馬を投げ込んだ。あまりにもイミフではあるが、『古事記』にそれ以上の説明はなし。

それに驚いたのが、天服織女こと稚日女尊。驚きのあまり、機織り機の梭(ひ)が女陰に突き刺さり、亡くなってしまうことに。日本書紀では、女陰ではなく、梭で身体を傷つけ亡くなった、としている。

これにキレたのがアマテラス。まさに堪忍袋の尾が切れた状態で、天岩戸に隠れる。日本神話のクライマックスの一つ、天岩戸隠れへと進んでいく、そのきっかけとなる事件の被害者が天服織女こと稚日女尊、となる。

アマテラスの別名が大日女(おおひるめ。大日孁とも)であり、「わかひるめ」と読む稚日女尊はアマテラス自身のこととも、幼名であるとも、妹神や御子神であるとも言われる。

生田神社(兵庫県・神戸市)では幼名としており、丹生都比賣神社(和歌山県・かつらぎ町)では、祭神の丹生都比売大神の別名が稚日女尊であり、アマテラスの妹としている。

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