諸国修行中の法印(ほういん)と剛力(ごうりき)は、陸奥(むつ)の国・那須野ヶ原を通りかかります。 そこで九尾の悪狐が人々に害を与えているのを聞き、この悪狐(あっこ)を退治しようと出かけますが、途中法印が倒れてしまい一夜の宿を借ります。

そこの女主人(じつは悪狐)に化かされて法印は逃げ去り、剛力は食われてしまいます。それを知った弓の名人、三浦介、上総介により悪狐は退治されます。

法印と剛力の石見弁でのユーモアのあるしゃべりや、悪狐が客席に来たりなど、他の演目とは、一味違った演目です(出典:なつかしの国 石見

【ぶっちゃけ式解説】
この演目は、能楽「安達原(観世流以外の曲名は「黒塚」)」で著名な鬼女と、「殺生石」の玉藻前の2つの伝説を続けたもの。いにしえの人が「安達の原の黒塚に、鬼こもれり…」と詠っている場所が、一夜の宿を借りた女主人のところ。

能楽「黒塚」では、古事記でもお馴染みの「覗くな」パターンがあります。

1.イザナミに覗くなと言われたのに覗いだらイザナミがバケモノになっていて驚いたイザナギ
2.トヨタマに覗くなと言われたのに覗いたらトヨタマがワニになってお産していて驚いた山幸彦
3.ヒナガヒメに覗くなと言われたのに覗いたらヒナガヒメが蛇だったので驚いたホムチワケ

古事記では、いずれも女が宣告して男が覗くパターンであり、女が「何か」になっている、という形。「黒塚」では、女が男(たち)に宣告しますが、覗くなと言われた部屋に死体が累々。そうして、「安達の原の黒塚に、鬼こもれり…」と詠っている場所と知れた、となります。

「覗くな」パターン、つまり見るなのタブー、見るなの禁止、民族型類型としての禁室型(きんしつがた)、心理学的にはカリギュラ効果などなどとも言われ、世界中に事例が見られ、研究されていますが、「日本人の精神構造を根本的に規定している」(北川修)とも呼ばれます。日本及び日本人への理解に必須の現象です。

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