吉野に猪がいると言ったのは誰だ~
天下を統べる天皇は、
猪を待つと椅子に座っていると~
白い織物のお袖から出ている腕にアブが取り付き、
そのアブをトンボが早食い~
だから、だから、この大和の国を~
蜻蛉島(あきつしま)というんだよ~

歌い手:雄略天皇
出 典:「オマエ可愛いから大人になっても嫁行くな」と雄略天皇に言われた童女の顛末
章立て:18.雄略天皇

雄略天皇縦480pxこれも雄略天皇編の吉野説話の中に収録されている歌。蜻蛉島(あきつしま)が大和、あるいは日本の美称となっていることについての、古事記における理由付けです。

日本書紀では、その理由付けを行ったのは神武天皇になっており、山上から国のかたちを望見した際、とんぼが交尾しているように山々が連なり囲んでいる国ということで、蜻蛉島と呼ばれるようになっています。

とんぼの交尾って。。と、現代なら考えがちですが、古代的な大らかな比喩です。

というのもとんぼは古代において稲作における貴重な益虫と考えられ、大事にされ、神聖視もされていたようです。その交尾というのは目出度いことこの上ない、ということになります。

さて、雄略天皇のこの歌ですが、同じ蜻蛉島の理由付けにしても、日本書紀の神武天皇の逸話とはやはり若干趣が違います。とんぼの交尾ではなく、とんぼがアブを喰らったことに対してのものです。

このあたり、雄略天皇の性格がにじみ出ているような気がします。古事記に描かれた、荒々しく、粗暴で、傍若無人、まさに古代日本のジャイアンが蜻蛉島の理由付けを行うとこうなる、というような感じがします。

しかし、同じ吉野説話にしても、先の美しい乙女との合体とその舞を見た時の歌とは、やはりどうしてもつながりません。雄略天皇と吉野に関係する話を寄せ集めた感はやはり強くあります。

※下記は、現代語譯 古事記 稗田の阿禮、太の安萬侶 武田祐吉訳による現代語訳。上のぶっちゃけ訳とも見比べてください。

吉野のヲムロが嶽に
猪がいると
陛下に申し上げたのは誰か。
天下を知ろしめす天皇は
猪を待つと椅子に御座遊ばされ
白い織物のお袖で裝うておられる
御手の肉に虻が取りつき
その虻を蜻蛉がはやく食い、
かようにして名を持とうと、
この大和の國を
蜻蛉島というのだ。

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