円野比売命(まとのひめのみこと=マトノ)縦480px
古事記を彩る姫たちエントリーNO.12 円野比売命(まとのひめのみこと=マトノ)

垂仁天皇が沙本毘古王(さおびこのみこ=サオビコ)の反逆で失った皇后・沙本毘売命(さおびめ=サオビメ)の代わりに嫁取りした際に、輿入れしてきた六人の姫たちの一人。この六人のうち、四人はマトノ含む四人姉妹。四人姉妹のうち、マトノ含む二人が、垂仁天皇に「ブサイクだから実家帰って」と言われてしまい。。

円野比売命(まとのひめのみこと=マトノ)縦500px サオビコを滅ぼす直前、それと運命を共にしようとしていたサオビメに指名させたように、垂仁天皇は丹波国(現 京都府)の比古多多須美智能宇斯王(ひこたたすみちのうしのみこ)のところの、兄比売(えひめ)・弟比売(おとひめ)のほか、

・比婆須比売命(ひばすひめのみこと)…サオビメ死後の次の皇后
・弟比売命(おとひめのみこと)
・歌凝比売命(うたごりひめのみこと)
・円野比売命(まとのひめのみこと=マトノヒメ)

以上の四人を宮中に召します。

このうち、歌凝比売命とマトノヒメ(日本書紀では真砥野媛)はブサイクだったので、故郷の丹波に返してしまいました。

似たような話がありましたね。そう、石長比売(いわながひめ=イワナガ)

天孫・邇邇芸命(ににぎのみこと=ニニギ)に美女で妹の木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ=サクヤ)と一緒に嫁いだものの、イワナガが残念ながらブサイクちゃんだったので、ニニギによって実家に帰された、というもの。

古事記では繰り返される天皇への反逆騙し討ち、繰り返される兄妹愛、などなど、いくつかの類型がありますが、面食いとブサイクもその一つ。

記録というのは珍しいから残される、とは言いますが、繰り返されるパターンの場合、記録された、ということと同時に、何ものかを暗示している可能性もあります。

さて、一緒に返された歌凝比売命については、古事記に言動が伝えられていませんが、マトノちゃんの方は、姉妹の中で比べられて弾かれたということに大変なショックを感じます。「傷心、自殺します…」

実家への帰路でホントに自殺を図りますが、幸か不幸か死にきれず。木の枝に首をかけて死のうとしたので、その地が懸木(さがりき)と呼ばれるようになり、現在では相楽、つまり京都府相楽郡(さがらぐん)一帯。

死にきれずにまた実家に帰って行くと、今度は事故。深い淵に落ちて亡くなってしまいました。そのため、その地を堕国(おちくに)と呼ばれるようになり、弟国(おとくに)となり、現在の京都府乙訓郡(おとぐにぐん)一帯。

イワナガの時は、ニニギ及びその家系への呪詛という展開でしたが、マトノちゃんの場合、地名命名譚になっています。また、古事記において、明確に自殺の意志を示し、実行しようとしたのはマトノちゃんが初めて。

古事記では、残念ながら幸福に包まれる姫というのは少数です。何らかの影があるのが通例。それはそれで姫たちの魅力の一つになっていたり、光の部分をより明るくしていたりする効果はあるのですが、このマトノちゃんに関しては、正直救われません。

・姉妹と比べられて、ブサイクと言われ
・(日本初の?)自殺を図り、
・死にきれなかったものの、結局事故死

垂仁天皇はこの嫁取りの後、話の流れとして、亡くなることになります。それがマトノちゃんとのことの因果応報的になっている、というわけではなさそうで、少なくともニニギ―イワナガの時ほどは明確ではありません。

いずれの時代でもブサイクよりは美形が尊ばれがちではありますが、これほど救われないブサイクちゃんの話を歴史書に明確に載せる、というのは少し酷な気もします。しかし、それが歴史、でもあるのでしょう。

【関連記事】
4人姉妹まとめて嫁取りの垂仁天皇「ブサイク2人、実家に帰って」で傷つく女心

ほとばしる美しさで、男どもをメロメロにする女子たち - 古事記を彩る姫たち
日本が世界に誇る、古代ラブロマンス・オペラへようこそ - ぶっちゃけ古事記本文の目次

【関連キャラ】
マトノ - 垂仁天皇にブサイクと言われ自殺未遂
垂仁天皇 - 皇后をNTRされ、救われない姫を誕生させる