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古事記を彩る姫たちエントリーNO.11 沙本毘売命(さおびめ=サオビメ)

垂仁天皇の最初の皇后。日本書紀では狭穂姫命と表記されます。

兄・沙本毘古王(さおびこのみこ=サオビコ)が天皇に反旗を翻し、天皇の軍に攻めたてられ、兄と運命を共にする。

そもそもの乱のきっかけは、サオビコがサオビメに「オレと、天皇、どっちが好き?」と聞かれ、思わず「お兄様」と言ってしまったこと。

沙本毘売命(さおびめ=サオビメ)縦500px喜んだサオビコは、サオビメに武器を渡して、「これで天皇殺っちゃって」と依頼。サオビメは自分の膝枕で寝ている天皇を殺そうとしますが、やっぱり天皇も愛おしくて、できず。泣いた時の涙が天皇の顔を濡らし、天皇が起き、事情を聴きます。

サオビコの反旗を知って、天皇はすぐにサオビコを攻めたてます。しかし、兄を見捨てることができないサオビメは、天皇のところから抜け出し、籠城している兄のもとに身を寄せます。

籠城中にサオビメは出産、「あなた様の子だと思うなら、連れ出して育てて」と天皇に要請。天皇も快諾。サオビコとの間の子だったかもしれず。。

その後、天皇は籠城中の妻サオビメに向かって、子の名前や養育方法を聞き、「オマエの後の添い寝相手(次期皇后や妃)、誰がイイ?」など後事も聞き出し、それが終わった後、籠城するサオビコをサオビメともに攻め滅ぼしました。

色々ツッコミどころ満載ながら、古代叙事詩的な展開で、ヤマトタケルの説話とともに、古事記の文学性の高さを示す説話ともされており、また特筆すべきは、サオビコ―サオビメという同母兄妹による禁断の愛が描かれていること。

允恭天皇の皇太子カルミコとその同母妹のカルノによる禁断の情事との共通性も見られます。悲恋や、文学的な美しさは強調されがちですが、天皇を中心とした、同母兄妹による愛の物語が二つも収録されていることは、古事記の一つの特徴だと思われます。

いとこ同士の結婚は当たり前、異母兄弟での合体も珍しくなかった古代。つまり、異性の対象がほとんど皇族内で収まっている時代において、選択肢の少なさから、より身近な同母兄妹に性的な魅力を感じるな、という方が難しかったのかもしれません。

同母兄妹の愛は大変なタブーとされながら、古事記に記載されている(確認されている)だけでも二例あるということは、当時、頻繁にはなかったかもしれませんが、相応のケースがあったことも示唆していると思われます。

同母兄妹の禁断の情事は、本稿のサオビメよりも、先にも紹介した、軽大郎女(かるのおおいらつめ=カルノ)の方が有名ではあります。

さて、サオビメ。

1.兄との問答では兄を取ると答え、天皇に問い詰められたらやむなく兄の企みを漏らし、
2.兄が天皇軍に囲まれたら天皇を捨て兄のもとに身を寄せる。
3.籠城中に出産したら、天皇との子ではない可能性をも示唆しつつ、天皇に育児をおまかせする。
4.天皇のサオビメ奪還作戦を読み、連れ去られない工夫を施す。
5.果てには、自分の死後の、垂仁天皇のオンナについても意見を求められる。

ここまで個性的な記述をされた姫は、古事記の中でも珍しいかもしれません。そもそも古事記は当然のことながら男性の登場人物優位の書です。その中で、女性が目立つこと自体が珍しい。

先に述べたように、ヤマトタケル説話に出てくる姫たちも、ここまでの描写はなく、カルミコとカルノの禁断の情事におけるカルノの言動も、何首かの歌から推し量ることしかできません。

相当に個性的な方だったので、記録としても紙面を多く割くことになったのでしょう。その意味では、あまりメジャーとは言えないサオビメですが、古事記の中で特別な姫の一人とも言えます。

396px-Kamitsukeno_Yatsunada_attacking_Saohime's_castleしかし、垂仁天皇にとってはNTR。サオビメが兄の籠城先に身を寄せた後も、サオビメに対する愛を貫いたあたり、相当愛していたことを示します。心が広い、というか、何というか。

サオビメが籠城先で火中出産した子(ホムチワケ)を籠城先から外に出す時、垂仁天皇は子を引き取る兵士に言い聞かせて、サオビメも一緒に連れ出せと命じていることも、垂仁天皇のサオビメに対する“いつま~でも、変わらぬ愛”を示していると言えます。

ただし、垂仁天皇には、天孫・邇邇芸命(ににぎのみこと=ニニギ)と同じく、「ブサイク」ちゃん説話があり、度量の広さ的にはどうなの、というか、サオビメを失った悲しみから、娶った女を「ブサイク」と言って実家に帰すような奇矯につながった、ともいえるかも。

兄妹愛、天皇への反逆、NTRなどなど、古事記の古事記たる所以ともいえるワードのたくさん詰まった説話の主人公、それがサオビメです。

※画像は、炎に包まれる狭穂姫命(月岡芳年画)(出典:Wikipedia)

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【関連キャラ】
サオ - 垂仁皇后、義兄にNTRされて激怒する天皇
垂仁天皇 - 皇后をNTRされ、救われない姫を誕生させる
サオビコ - 妹に天皇暗殺を教唆、兄妹愛に殉ずる