軽王と軽大郎女16.允恭天皇
16-2.軽王と軽大郎女


新羅国(しらぎのくに)の新薬で一時的に回復したものの、根からの病弱であった允恭天皇が亡くなります。

軽大郎女(かるのおおいらつめ=カルノ)縦480px皇太子である木梨之軽王(きなしのかるのみこ=カルミコ)は、まだ即位しないうちに、衣通郎女(そとおしのいらつこ)の敬称を持つほどの絶世の美女と言われたその同母妹・軽大郎女(かるのおおいらつめ=カルノ)と密通してしまいました。

異母姉妹との結婚は認められていましたが、同母姉妹との間では大変なタブーであり、まさしく禁断の情事です。

その時にカルミコが歌った歌は。

山に田んぼを作っているが、
山が高いので、
地中に管を通して、
こっそり水を引く~
そんな感じで、
こっそり言い寄った恋人を、
こっそり泣いたわが妻を、
今夜こそ、思う存分、
愛撫してやる~

また別の歌も歌いました。

笹の葉に霧がタッタッと音を立てて打つように~
確かに二人が一緒に寝た後は~
人が私から離れていっても、
お前への愛しさは変わらないよ~
あんなに楽しくエッチできたのだから~
心も世も、乱れるなら乱れてしまえ~
あんなに楽しくエッチできたのだから~

木梨之軽王(きなしのかるのみこ=カルミコ)縦480pxこの近親相姦が宮中に漏れ伝わり、一大事。人心は軽王から瞬く間に離れ、対抗馬・穴穂命(あなほのみこと=安康天皇)に集まりました。

不安になった軽王は、宮廷を出て、大前小前宿禰大臣(おおまえこまえのすくねのおおおみ)の家に逃げ入って、兵を整え、戦に備えました。穴穂命も軍を起こします。

穴穂命は軍を率いて、大前小前の邸を囲みましたが、穴穂命がその門の前に着いた時、雹が降りました。そこで、穴穂命が歌ったのは。

大前小前よ~、
家の門の陰に、
ちょっと寄って来いよ~
雨の止むのを待とうよ~

すると、大前小前が手を挙げ、膝を打って、舞を舞い、歌を歌いながら出てきました。その歌は。

袴を結ぶ紐につけた小さな鈴が落ちたと言って、
都の人は大騒ぎしているが、
田舎者は騒いではいけません~

そして、大前小前が曰く。「天皇になられようというお方が、同母兄と戦しようなどとは考えますな。もし戦になったら、人の笑いものになりましょう。私にお任せください」

それを聞いて、穴穂命は軍を解散して、退きました。大前小前は邸に戻って、カルミコを捕え、穴穂命に差し出しました。その時、カルミコが歌った歌は。

カルノよ~、
そんなにひどく泣いたら、
人は二人のことを知ってしまうだろう~
波佐山の鳩のように、
こっそりと泣きに泣くがよい~

…KYすぎね? バレたからこんな騒動になっているんですけど、カルミコさん。っは、ともかく。またカルミコは歌います。

カルノよ~、
秘かに忍んで、
私に寄り添って、
寝ていくがよい~、
カルノよ~

…どこまでカルノLOVE? ということで、カルミコは伊予湯に流されることになりました。道後温泉? それ流刑じゃなくねっ? というツッコミはごもっともですが、当時の伊予は畿内から見れば僻地も僻地。またカルミコが歌います。

空を飛んでいる鳥も、
私たちの間の使いなのだ~
鶴の鳴く声が聞こえたら、
私のことを鶴に聞いてくれ~

また歌います。

天皇たるべきオレっちを島流しった~、
上等だ、コラ!
いつか必ず帰ってくるぜ~
だから、オレっちの住んでいた畳を
決して汚すんじゃねーぞ。
畳って言っているけど、
実際はカルノ、オマエのことだぜ~
浮気すんなよ!

そこで、カルノが歌をカルミコに送ります。

男と女がともに寝るという名のあいねの浜の、
牡蠣の貝がらに足を踏んで、
お怪我しないでくださいね~
夜が明けてから行った方がいいわよ~

その超訳(カルノ、心の叫び)

女遊びはほどほどにね、
あたい以外の女に惚れんなよ
夜に旅立つと体がうずいて、
女欲しくなるだろうから、やめとけよ

こうして二人は離れ離れになりましたが、愛しさと切なさと心苦しさに耐えかね、カルノはいてもたってもいられず、伊予国(現 愛媛県)にカルミコを追いかけます。その時、カルノが詠んだ歌。

あなたが行ってしまって、
長い月日が経ってしまいました。
山の鶴になって、
迎えに行きましょう。
もう、どうにも待っていられないわ~

こうしてカルノが伊予について、それを待っていたカルミコが詠んだ歌。

泊瀬(はつせ)の山の、
大きな丘に幡を立て、
小さな丘にも幡を立て、
大きい丘と小さい丘が仲良く並んでるね~
そんな仲の良いオレたちだから、
わが愛する妻よ。
ああ槻弓(つくゆみ)のように寝ている時も~
梓弓(あずさゆみ)のように立っている時も~
やさしく愛撫したオマエを~、
末永くいたわっていきたいとは思うが、
かわいそうなことだ~

また歌います。

泊瀬(はつせ)の川の上流に~
神聖な杭を打ち、
下流に
は立派な杭を打ち~
神聖な杭には鏡をかけ、
立派な杭には美しい玉を懸け~
その美しい玉のように私が大切に思う妹よ
その鏡のように私が愛しむ妻よ
オマエが生きているというなら、
お前の家にも訪ねていき、
故郷をしのぶこともできるんだろうけどな

間もなく、二人は一緒に死んでしまいました。日本史上初の心中です。

皇太子が皇位を投げ捨てて、(若干KYながら、)同母妹との愛を取り、禁断の情事に溺れ、兄妹ふたりともに逝った、悲しい悲しい日本古代のラブロマンスでした。

※画像は、「軽王と軽大郎女」Google画像検索結果のキャプチャー

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【関連キャラ】
カルミコ - 禁断の近親相姦に走る日本最古の歌人
カルノ -  日本古代史上NO.1美女は積極的行動派
安康天皇 - 近親相姦を糾弾して皇位に就くも暗殺される

【古事記の神・人辞典】
允恭天皇
カルミコ
カルノ

安康天皇(穴穂命)
大前小前

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