天若日子5.葦原中国平定
5-1.天菩比神と天若日子


というわけで、国譲りに移ります。高天原におわします天照大御神(あまてらすおおみかみ=アマテラス)が突然曰く。

アマテラス「葦原の水穂の国(あしはらのみずほのくに=日本の国)、1500年ほど栄えていい感じじゃ~ん。今後、あたしの息子が治める国にすっから」

天照大御神(あまてらすおおみかみ=アマテラス)縦500pxと宣言。えっ、突然すぎじゃ…。でもホントこういう展開なので、先進みましょう。

指名されたのが、天忍穂耳命(あめのおしほみみ=アメノオシホミミ)。アマテラスとスサノヲの誓約(うけい)で、アマテラスの「八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠」をアマテラス弟・建速須佐之男命(たけはやすさのをのみこと=スサノヲ)が噛み砕き、吹き出した息の霧から生まれた五柱の男神の中の長男。

この誓約で計八柱神生まれるわけですが、これってアマテラスとスサノヲのチョメチョメを暗示しているとも言えて、その意味では天忍穂耳命はまたスサノヲの血も引いているわけで。そうなると、国譲りって、スサノヲの家系同士のこと? ということにもなるわけで。それはさておき。

アメノオシホミミ、高天原から葦原の水穂の国を見下ろして一言。

アメノオシホミミ「えっ~、あそこ行くの? ちょっと騒がしくね? 勘弁してほしいな~、もう」

そうして実際、アマテラスのところに行って、拒否りました。そこでアマテラスは高御産巣日神(たかみむすひのかみ=タカミムスヒノカミ)と相談して、八百万の神々を招集、対策会議を開きます。ちなみに、タカミムスヒノカミは「造化の三神」の一人。「造化の三神」、ところどころに顔を出します。

アマテラス「もう息子に日本治めさせることに決めちゃったんだけど~、息子が日本には乱暴な神がいっぱいいるってビビっちゃって~、何とかして日本の神たちをおとなしくさせたいんだよね~。誰にやらせるのがいい?」

高天原の知恵袋・思金神(おもいかね=オモイカネ)が曰く。

オモイカネ「天之菩卑能命(あめのほひ=アメノホヒ)がよいかと」

天之菩卑能命もアマテラスとスサノヲの誓約で生まれた五男神の一柱。早速、葦原の中つ国(高天原と黄泉の国の間にある世界、すなわち日本)に行かされ、大国主命(おおくにぬしのかみ=オオクニヌシ)に国譲りへの説得を始めます。

しかし、、「息子に治めさせることに決めちゃったから」というアマテラスの無茶ぶりをフォローするための説得、天之菩卑能命も頭痛かったことでしょうね。そうこうしているうちに、逆にオオクニヌシに説得されて、天之菩卑能命は葦原の中つ国に住みつき、3年もの間、高天原に戻りませんでした。

そこでアマテラスはタカミムスヒノカミとともに再び八百万の神々を招集、善後策を練ります。

アマテラス「アメノホヒのヤツ、帰ってこないんですけどっ。どういうこと? どうすりゃいい?」

高天原の知恵袋・思金神(おもいかね)が再び曰く。

天若日子(あめのわかひこ=アメノワカヒコ)縦480pxオモイカネ「天若日子(あめのわかひこ=アメノワカヒコ)がよいかと」

そこで高天原では、アメノワカヒコに大きな弓と矢、つまり天之麻迦古弓(天鹿児弓)と天之波波矢(天羽々矢)を授け、葦原の中つ国に派遣しました。しかししかし、アメノワカヒコ、オオクニヌシの娘・下照比売(したてるひめ=シタテル)にゾッコン、結婚して幸せになりましたとさ。さらにさらに野心たぎらせて曰く。

アメノワカヒコ「この国、気に入ったからオレのものね キリッ」

またまたアメノワカヒコ、8年もの間、高天原に報告を怠る始末。まあ、もう本人は完全に謀反のつもりなんですが。しかし、アメノワカヒコの心変わりを確認する術がない高天原ではまたまた対策会議。

アマテラス「天若日子のヤツも、帰ってこないんですけどっ。誰か行かして、ヤツの話聞いてきて」

下照比売(したてるひめ=シタテル)縦480px高天原の知恵袋オモイカネが三度曰く。

オモイカネ「鳴き女(なきめ=ナキメ)というキジを遣わせるがよいかと」

そこでナキメは葦原の中つ国に飛んでいき、アメノワカヒコの家の門にある桂の木の枝にとまり、戻ってこない理由を問いただすと、近くにいた天佐具売(あまのさぐめ=アマノサグメ)という女神が、「この鳥、不吉よ。殺っちゃって」と叫びました。

そこでアメノワカヒコは高天原から持参した天鹿児弓と天羽々矢を使い、このキジのナキメを射殺しました。あまりにも威力が強かったため、天羽々矢はキジを貫いて高天原まで飛んでいきました。高天原まで来た(キジの)血が付いたこの矢を見たタカミムスヒノカミが八百万の神々に向けて曰く。

タカミムスヒノカミ「あっ、これアメノワカヒコに授けたものじゃね? この血、何? じゃあ、今からのこの矢投げ戻すっから、アメノワカヒコが無実だったら当たらないように、アメノワカヒコが裏切っているようだったら突き刺して、ぶっ殺しちゃってよ」

と誓約して、ひょいと矢を突き返しました。すると、葦原の中つ国で高いびきのアメノワカヒコの胸にこの矢が見事に突き刺さり、アメノワカヒコは死んでしまいました。日本初の暗殺。

結局、使いに出たキジは帰ってこなかった(アメノワカヒコに殺されていた)ので、「雉子の頓使い(行ったきりで戻ってこない使い)」という諺が生まれましたとさ。

※画像は、「天若日子」Google画像検索結果のキャプチャー。

【関連記事】
【古事記を彩る姫たち】シタテル - 国譲りに登場の姫 夫の死を乗り越え、和歌の祖に
八嶋智人さん「古事記には様々な愛の形の物語」、一つ一つを列挙 - 古事記の恋バナまとめ
高円宮典子さまと千家国麿さんのご婚約は、古事記の時代までさかのぼれる慶事

【関連キャラ】
アマテラス - 「譲って、ください…」ですべて始まる
タカミムスヒノカミ - 神の中の神、アマテラスの分身?
アメノオシホミミ - どうしても降臨したくなかったニニギの父
アメノホヒ - オオクニヌシに心酔したアマテラスの子
シタテル - オオクニヌシ娘で和歌の祖という姫
オモイカネ - 高天原の知恵袋は天然おじいちゃん?
アメノワカヒコ - シタテルに一目惚れ、高天原を裏切る

【古事記の神・人辞典】
アマテラス
タカミムスヒノカミ 
アメノオシホミミ
オモイカネ
アマツクニタマノカミ
アメノホヒ
アメノワカヒコ
シタテル
ナキメ
アマノサグメ

前へ | 目次 | 次へ